お嬢様、庭に恋をしました。
夜の庭に、想いを飾る
「こんばんは。少しだけ、付き合ってもらってもいいですか」
その日、舞花が玄関を出た時。
門の前に、悠人が車で迎えに来ていた。
黒の落ち着いた車。
普段は作業服かラフな格好の彼が、
今日は控えめなジャケットを羽織っていた。
「え……椎名さん、車なんて……」
「特別な日なんで。ちゃんと、迎えに来たくて」
舞花の胸が、ふっと高鳴る。
助手席に乗り込んだときの静けさ。
車内には、ほんのりラベンダーの香りが漂っていた。
会話はほとんどなかったけれど、
流れる景色も、心音も、なにもかもが、特別だった。
「……ちょっと遠いですが、大丈夫ですか」
「はい。どこへでも」
──そうして着いたのが、
夜の光に包まれた、ひとつの公園だった。
舞花は思わず立ち止まる。
「着きました」
「えっ……ここって、公園ですよね?」
舞花は思わず立ち止まった。
「夜、開放されることはないんですけど」
悠人は静かに言う。
「……今回は、ちょっとだけ。特別にお願いしました」
夜の風に、淡く照らされたアーチ。
そして、その奥に広がっていたのは──
昼間とはまるで別の表情をした“庭”だった。
舞花は、言葉を失う。
アナベルが、そっと照らされている。
紫陽花、ローズマリー、ラベンダー。
静かな光の下で、それぞれが舞台に立つように咲いていた。
「……全部、悠人さんが?」
「はい。……舞花さんのために」
「……なにそれ、ズルい」
ほんの一言で、息が詰まる。
「……いつか、“自分の庭”で伝えたくて」
悠人が、ゆっくりとこちらを向く。
「この庭に咲いてる花は、全部──
舞花さんが話してくれた、好きな花です」
「さりげなく言ってたこと、ちゃんとメモしてました」
「……そんなの、言ってよ……」
「言ったら驚かせられないでしょう?」
「……もう、ムリ……」
舞花の目に、涙がにじむ。
「“ちゃんと好きになっていい人”──って言ってたでしょう」
「俺はその、“ちゃんと”の対象に、なりたかった」
「条件じゃなくて、家柄じゃなくて──」
「俺という人間を、ちゃんと好きになってもらえるように、
ずっとここまで来たんです」
悠人の手が、そっと舞花の手を包む。
「だから、もう一度言わせてください」
「舞花さん、好きです。
これからは庭師としてではなく……隣で、一緒に庭を歩いていきたい」
言葉じゃなくて、全部、伝わった。
「……私も…」
「椎名悠人という人が…全部、好きです」
ほんの一瞬の間を置いて、
悠人がギュッと、舞花を抱きしめた。
手の温度、息づかい、胸の音。
全部が本物で、全部がずっと欲しかったものだった。
「もう……絶対、離しませんから」
「うん。私も、もう絶対、逃げません」
ふたりの間に咲いた、夜の庭。
それは、想いを飾った舞台であり、
二人だけの誓いの場所になった。
──こうして、“ちゃんと好きになった人”と、
“ちゃんと結ばれる恋”が、咲いた。
その日、舞花が玄関を出た時。
門の前に、悠人が車で迎えに来ていた。
黒の落ち着いた車。
普段は作業服かラフな格好の彼が、
今日は控えめなジャケットを羽織っていた。
「え……椎名さん、車なんて……」
「特別な日なんで。ちゃんと、迎えに来たくて」
舞花の胸が、ふっと高鳴る。
助手席に乗り込んだときの静けさ。
車内には、ほんのりラベンダーの香りが漂っていた。
会話はほとんどなかったけれど、
流れる景色も、心音も、なにもかもが、特別だった。
「……ちょっと遠いですが、大丈夫ですか」
「はい。どこへでも」
──そうして着いたのが、
夜の光に包まれた、ひとつの公園だった。
舞花は思わず立ち止まる。
「着きました」
「えっ……ここって、公園ですよね?」
舞花は思わず立ち止まった。
「夜、開放されることはないんですけど」
悠人は静かに言う。
「……今回は、ちょっとだけ。特別にお願いしました」
夜の風に、淡く照らされたアーチ。
そして、その奥に広がっていたのは──
昼間とはまるで別の表情をした“庭”だった。
舞花は、言葉を失う。
アナベルが、そっと照らされている。
紫陽花、ローズマリー、ラベンダー。
静かな光の下で、それぞれが舞台に立つように咲いていた。
「……全部、悠人さんが?」
「はい。……舞花さんのために」
「……なにそれ、ズルい」
ほんの一言で、息が詰まる。
「……いつか、“自分の庭”で伝えたくて」
悠人が、ゆっくりとこちらを向く。
「この庭に咲いてる花は、全部──
舞花さんが話してくれた、好きな花です」
「さりげなく言ってたこと、ちゃんとメモしてました」
「……そんなの、言ってよ……」
「言ったら驚かせられないでしょう?」
「……もう、ムリ……」
舞花の目に、涙がにじむ。
「“ちゃんと好きになっていい人”──って言ってたでしょう」
「俺はその、“ちゃんと”の対象に、なりたかった」
「条件じゃなくて、家柄じゃなくて──」
「俺という人間を、ちゃんと好きになってもらえるように、
ずっとここまで来たんです」
悠人の手が、そっと舞花の手を包む。
「だから、もう一度言わせてください」
「舞花さん、好きです。
これからは庭師としてではなく……隣で、一緒に庭を歩いていきたい」
言葉じゃなくて、全部、伝わった。
「……私も…」
「椎名悠人という人が…全部、好きです」
ほんの一瞬の間を置いて、
悠人がギュッと、舞花を抱きしめた。
手の温度、息づかい、胸の音。
全部が本物で、全部がずっと欲しかったものだった。
「もう……絶対、離しませんから」
「うん。私も、もう絶対、逃げません」
ふたりの間に咲いた、夜の庭。
それは、想いを飾った舞台であり、
二人だけの誓いの場所になった。
──こうして、“ちゃんと好きになった人”と、
“ちゃんと結ばれる恋”が、咲いた。