【番外編】イケメン警察官、最初から甘々でした。
交番の扉が、カラリと開いた。

その音に、交番内にいた美香奈と長谷川が同時に顔を上げる。

風がひとしきり舞い込んで――
そこに立っていたのは、
少し疲れたような、でもどこか安心したような顔の涼介だった。

「……涼介くん!」

美香奈の瞳が一瞬で輝きを取り戻し、椅子から立ち上がる。
まるで、迷子の子どもが親を見つけたように。
けれどその声は、甘くて、まっすぐで、嬉しさが溢れていた。

涼介はそんな彼女にふわりと微笑み返しながら、ちらりと視線を横に向ける。

「長谷川。……外まで聞こえてんぞ。」

「だって……!」
と、長谷川は口を尖らせて反論するが、
美香奈の目線はもはや彼を素通りして、ただ涼介へ一直線。

「涼介くん、お仕事お疲れ様。」

にこっと笑ってそう言った彼女に、
長谷川は思わず「……俺にも言ってほしいんですけど」と、完全に子どものように拗ねてみせる。

その様子を、涼介はどこか得意げに見ながら、
隣に来た美香奈の頭をぽんぽんと優しく撫でた。

「……泣いたのか?」

問いかける声は、やわらかくて、あたたかい。
それだけで美香奈の胸がまたきゅっとなった。

「うん。寂しくて……」

たった一言だけど、そこにこめられた時間は、決して短くなかった。

二人の間には、まるで自宅にいるかのような、
穏やかで、甘やかな空気が流れていた。

それを見ていた長谷川は、
(……僕の存在、忘れてる)
と、心の中で静かに突っ込みながらも、ちょっと語気を強めて言った。

「用のない方は帰ってください。」

すると、美香奈はハッと気づいたように振り返り、慌てて頭を下げる。

「長谷川さん、お騒がせして申し訳ありませんでした……!
 あの、もしよかったら――うちの事務所に、しばらくフリーで彼氏募集中の事務員さんがいるので、ご紹介しましょうか?」

その言葉に、長谷川の表情がぱっと変わる。

「……ぜひお願いします!!」

即答。目の色が変わっているのは明らかだった。

涼介は呆れたように、けれどどこか笑いを含んだ目で長谷川を見て、
美香奈の手をそっと引く。

「じゃ、俺たちはこれで。」

「お疲れさまでした、長谷川さん。」

「……お、お幸せにー!」

扉が閉まる音がしたあと、
交番の中には、ふたたび静けさが戻った。

長谷川は一人、ため息をつきながら天井を見上げて呟いた。

「……マジで紹介してくれるかな……」
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