【番外編】イケメン警察官、最初から甘々でした。
交番をあとにして、
夜風の吹く道を――二人は並んで歩いていた。

繋いだ手から伝わる、静かな温度。
言葉はほとんどなかったけれど、
その熱を丁寧に確かめるように、
踏みしめる足音がひとつ、またひとつと、同じテンポになっていく。

美香奈は、涼介の横顔をちらちらと見上げる。

すると涼介が、前を見たまま言った。

「……前見ないと、転ぶよ。」

「大丈夫。涼介くんと手繋いでるから、平気。」

くすっと笑ってそう返す彼女に、
涼介は小さく肩を揺らす。

しばらく沈黙が続いたあと、
涼介がぽつりと呟く。

「……寂しい思い、させてごめんね。」

その言葉に、美香奈は小さく首を横に振った。

「ううん。
 今日も涼介くんたちの力を、誰かが必要としてたんでしょ?
 だから私は――ひとりでも、ちゃんと耐えられるよ。」

まっすぐで健気なその言葉に、
涼介の胸がきゅうっと締めつけられる。

だけど――

「でも、長谷川の前で大泣きしたんでしょ?」

からかうように言うと、
美香奈はすぐに、

「それはそれでしょ。」

と、むっとしたような顔で返す。

「……長谷川さんの前だとね、なんかつい、本音が出ちゃうの。」

それを聞いた涼介は、ふっと息を漏らすように笑って、うなずいた。

「……あいつは、本音を引き出す天才だからな。
 わがままで、言うこと聞かないような困った人にも――
 無理強いせず、ちゃんと納得させるんだ。
 だから、交番って場所が似合ってるんだよ。
 市民の一番近くで、生活を支える。
 俺には……正直、苦手な仕事だ。」

肩をすくめながらそう言う涼介に、
美香奈はそっと微笑みかけた。

「……涼介くんと長谷川さん、いいコンビだったんですね。
 長谷川さんは、涼介さんの“補充”なんかじゃなくて――
 ちゃんと、“長谷川さん”だからこその警察官なんだと思います。
 その力量、ちゃんと周りに認められてるんですよ。」

涼介は少しだけ驚いた顔をしてから、
すぐにその目を和らげて、静かにうなずいた。

「……間違いないな。」

そう言って、握る手にぎゅっと力を込める。

美香奈はその手を、同じ力でぎゅっと握り返した。
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