【番外編】イケメン警察官、最初から甘々でした。
夜の静けさが部屋を包む中――
久しぶりに迎えた、二人きりの夜。

ソファに座る涼介の横には、美香奈がぴったりと張り付くように寄り添っていた。
まるで離れたくない、とでも言うように、指先まで絡めながら、くっついている。

「トイレ行くときもついていっちゃおっかなー」
なんて言いながら、涼介の腕に顔を擦り寄せている美香奈に、
涼介は苦笑いを浮かべるしかない。

「……さすがに、それはやめてくれ。」

けれど、その声はどこか嬉しそうで――
表情こそ控えめでも、確かに喜んでいるのが分かった。

そんな甘ったるい空気のまま、二人はキッチンに並んで、鍋の準備をしていた。

テーブルの上には、カットされた野菜と肉、
小鍋からはふつふつと湯気が立ち上っている。

「ねえ、涼介くん」
ふいに、美香奈が顔を上げた。

「……フーフーして、あーんして欲しい!」

それを聞いた涼介は、微妙な笑みを浮かべる。

「……なんだそれ。」

「え、嫌なの?」
美香奈は、頬を膨らませて不満そうに言う。

涼介は、首を横に振った。

「嫌じゃないけど……。
 ていうか美香奈、前からそんなキャラだったっけ?」

すると美香奈は、ちょっと誇らしげに言った。

「さっき交番で言われたんだもん。長谷川さんに。
 “神谷は、彼女に甘えられるのが一番好きらしい”って!」

涼介はその瞬間、頭の中でため息をついた。

(あいつ……美香奈に何吹き込んでんだ……)

とはいえ、否定もできないのが涼介の本音だった。

「……分かった。じゃあ、今日だけはなんでもしてあげるよ。」

そう言って、涼介はややいたずらっぽく目を細める。

「……その代わり、止められなくなっても、知らないから。」

「……え?」

美香奈は、きょとんとした顔で首を傾げる。

「なにが止められないの?」

その無邪気な問いに、涼介は思わず口元を押さえる。

(この子は……ほんとに、抜けてるんだか、しっかりしてるんだか……)

そんなふうに思いながら、涼介は黙って、鍋の湯気越しに美香奈を見つめていた。
その目は――じんわりと、あたたかくて、どこまでも優しかった。
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