【番外編】イケメン警察官、最初から甘々でした。
「もう……ほんとに観に行きたいんだからね!絶対、涼介くんの晴れ姿、見逃さないんだから!」

興奮冷めやらぬまま、浴衣の袖をひらひらと揺らしながら、美香奈はぴょんぴょんと弾んでいた。
まるで子どものような無邪気さで、旅館の畳の上をくるくる動き回るその姿に、涼介は視線をそらせずにいた。

「……落ち着けって」

そう言いながら、涼介は立ち上がり、すっと腕を伸ばす。
次の瞬間、美香奈の細い腕を軽く引き寄せ――そのまま、ふわりと、全身を抱きしめた。

「わっ、ちょっ……なになに、急に!離してってば~!」

美香奈は抗議するように身を捩じるが、それもひらひらした浴衣の中で、まるでちいさな鳥の羽ばたきのよう。
涼介はその動きを、逃がさぬように、けれど優しく包み込むようにぎゅっと抱きしめた。

そして、彼の低い声が、耳元でぽつりとこぼれる。

「……可愛すぎて、死にそう」

美香奈の動きが、一瞬ぴたりと止まる。

その隙を逃さず、涼介は彼女の顔をそっと引き寄せ――
息も整わぬままの、美香奈の柔らかな唇に、容赦なく深いキスを落とした。

「んっ……!」

驚いたように小さく声を漏らした美香奈は、ふらりとバランスを崩し、後ろに倒れるようにして、旅館の布団の上にボフッと腰を下ろした。

その動きを追うように、涼介もゆっくりと布団の上にあぐらをかき、腕を伸ばして美香奈を抱き寄せる。
そして、そのまま彼女の身体を自分の膝の上に乗せると、正面から向き合うようにして、静かに視線を絡ませた。

「……」

一瞬の静寂。
見つめ合うふたりの距離は、まるで時が止まったかのように、ゆっくりと縮まっていく。

美香奈は、どこか恥ずかしそうに微笑む。
けれどその笑顔には、隠しきれない嬉しさと、とろけるような愛しさが滲んでいた。

涼介はその表情に堪え切れず、眉間にわずかに皺を寄せて、美香奈の髪を指先ですっと撫でつけた。
そして――

「……もう一回」

小さく呟いたその直後。
彼はふたたび、美香奈の唇に貪るような深いキスを落とした。

指先は彼女の背を優しくなぞり、胸の奥では、静かに高鳴る鼓動だけが聞こえていた。
この夜はまだ、始まったばかり――
ふたりの甘い時間は、温泉の湯気のように、静かに、熱を帯びていく。
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