【番外編】イケメン警察官、最初から甘々でした。
朝――
薄く差し込む光に、障子越しの空がほのかに白み始めていた。
小鳥たちの囀りが、静かな山あいの旅館に優しく響く。

布団の上、ふわりと目を覚ました美香奈は、ゆっくりと瞬きを繰り返しながら、昨夜のことを思い出してそっと頬を赤らめた。
何度も夜を共にしているのに――
それでも、やっぱり恥ずかしい。

彼女はきゅっと布団を握りしめながら、隣にいる涼介に背を向けて、そっと身体を縮こませた。

すると、後ろから涼介の穏やかな声が届く。

「……美香奈、こっちへおいで」

その声に、美香奈は小さく反応し、背中越しに手を伸ばす。
けれど顔は相変わらず、彼には向けようとしない。

涼介は小さく笑って、その手を優しく取る。

「顔、ちゃんと見せて」

促され、美香奈はゆっくりと身体をひねり、俯いたまま、ようやく涼介の方に顔を向けた。
頬はほんのり桃色に染まり、まつげの隙間から彼をちらりと覗く視線は、どこか拗ねたようで――愛おしい。

「……いや、見ないで」

囁くような小さな声。
その一言に、涼介は思わず肩の力を抜いて、微笑む。

(……ほんと、かわいすぎる)

「美香奈ちゃんは、恥ずかしがり屋さんですね」

わざと意地悪にそう言うと、美香奈はぷいっとそっぽを向き、ふわりと自分の布団を持ち上げて――
そのまま、すっぽりと顔まで中に潜り込んでしまった。

「……おい」

涼介は小さく息を吐いて、布団の中の美香奈を手探りで探す。
彼女の柔らかな髪を見つけると、そっとなでなでと撫でる。

そのぬくもりに安心したのか、次の瞬間、布団がばさっとめくれ、美香奈の顔がまたひょこっと現れた。

寝癖のついた前髪越しに彼を見つめながら、少しだけむくれたような表情。
涼介はその様子に、内心ふっと笑う。

(……犬じゃないんだから)

でも、それがまたたまらなく愛しい。

「……起きようか。朝ごはん、食べに行こう」

そう言って、涼介は美香奈の頭をもう一度優しく撫でた。
旅館の朝の匂い――味噌汁と卵焼きの香ばしい香りが、そっとふたりを誘っていた。
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