元悪役令嬢、悪女皇后を経て良妻賢母を目指す 〜二度目は息子に殺させない〜
披露宴
——皇宮に戻ってからの披露宴は、それはそれは盛大に。
アルフォンス殿下と私は『ワァァァァァーーーーー!!」という凄まじい歓声と拍手に迎えられて入場した。披露宴の会場に使われる『饗宴の間』、大きく重厚な扉が左右から開けられると同時に、私が魔法のお披露目をしたからである。
手を大きく広げ、七色に光る水のボールを会場中に飛ばすと、それに合わせて皇宮魔術師たちのフラワーシャワー。シャンデリアの輝きと相まって、キラッキラのオープニングである。
皇宮魔術師の師長がこの日のために、皇太子宮の私の元へ毎日通って教育係を務めてくれた。その指導のかいもあり、私は歌劇団の演出もこなせるくらいに腕を上げたのだ。ほんと意外に魔力あったわ——。
『大聖女』レベルの魔力だって鑑定された時には使い道を全く想像できなかったけれど、こんなところで役立つとはね——。
我らがルヴェルディ帝国は、魔術大国であった歴史を持つ。
今でこそ魔力を持つ者の数は減り、魔術の種類によっては禁忌とされ、許可なく使用する者がいれば即刻お縄だが——。
だからこそ帝国により手厚く保護される魔術師たちは、日頃の鍛錬に余念がない。彼らの腕は、いざ戦となれば強力な戦術の一つとして第一線で使われることにもなるからである。
いずれやってくる殿下と私の務めは、そんなことにはならないよう帝国を守ること。皇帝、皇后ってものは、本当に責任重大な役割で——。
——そして披露宴の料理やワイン、
積極的に近隣諸国からの輸入食材を取り入れ他国との調和をイメージ、そしてワインは全て帝国産で揃え、我が国の安定をアピールすることにした。
おおむね好意的に捉えられたようで、お客様が満足して下さったことが表情からも伝わって一安心。
一度目は、私が食べたいものか私が好きなもの、このどちらかしか選択肢がなかった。国としての恥など考えもせず——本物のク○妃殿下である。
なんだかんだ本当に準備は大変だったけれど、今日ばかりは外交問題など無粋な話をする人もいない。楽しい話題で溢れる時間。こんな日が毎日続いたら嬉しいのに——と怠け者の短絡的な発想に行き着いたことは、一度目も二度目もなく私個人の問題だ。
「ママァ~♪」
「マリシス、待たせましたね」
ギュッと抱きつく身体は小さいが、舌足らずではあっても言葉も順調に覚え、結婚式で誓いの言葉を真似るくらい達者になった。
いつもなら私から全く離れないのに今日はスッと身を引いたところを見ると、いつもとの違いを的確に察しているのだろう。存外、賢いものである。
「パパァ~バイバ~イ」
これには殿下もまんざらではない様子。——手を振りかえしている。
マリシスと暮らすようになってからの殿下は、ちゃんと笑えるようになった。以前は何か達観したような、口角を片方だけ上げるような笑い方をしていた。それが変わったということは、私にとっても嬉しい変化で。——マリシス効果、真に偉大である。
だから、たとえ殿下と私に子が生まれても、マリシスには第一皇子として皇位継承順位第一位のままでいてもらうつもりだ。
きっと良き後継者に成長する、そう信じているから。
「クリスティナ様、本日はおめでとうございます」
振り向くとそこには、隣国シーグレイプ王国の王女イレーヌ殿下が立っておられる。彼女とのご縁は、近隣諸国の女性王族が集まる会議から始まった。
たまたま席が隣で、あまり賢くない私に議題に沿った説明をしてくれた思いやり溢れるお姫様である。
「まぁ!イレーヌ殿下。本日はお越しいただき、ありがとう存じます」
「我が国の塩キャラメルをデザートに使っていただき、とても嬉しいですわ」
「こちらこそ会議の時に分けていただいて感謝しております。あの時に出会っていなければ、こんなに美味しいものがあると知らずに過ごしていましたもの」
シーグレイプ王国は海に面した国で、ミネラル豊富な塩が特産品だ。
塩だけでなく塩を使ったお菓子など加工品も輸出し、大きな利益を得ている。
他国では珍しい塩味のお菓子に、私は惚れてしまったのだ。
「マリシスも好んで食べているので、また注文させていただきますわ」
「光栄でございます。ではまた……」
イレーヌ王女が立ち去ると、アルフォンス殿下が驚いている。
「ティナ、君ってやっぱり何かがおかしいんだよ」
「……何がです?」
「だって、あの王女……何年も引きこもってて、誰も会ったことなかったんだ」
「昨年の大陸女性会議で仲良くなりましたの」
「そうそう、それが……たしか10年ぶりの外出だったはずだよ」
「へ? どうやったら10年も外出せずに過ごせるのです?」
「せっかくだから、本人に聞いてみれば?(私は全く興味ないけどね)」
「……殿下にとってはどうでも良さそうなネタですわね」
どうやら私の予想は的中しているようで、殿下は「ふふふ」と笑って軽く受け流すだけ。——ほんとに独特な人。
アルフォンス殿下と私は『ワァァァァァーーーーー!!」という凄まじい歓声と拍手に迎えられて入場した。披露宴の会場に使われる『饗宴の間』、大きく重厚な扉が左右から開けられると同時に、私が魔法のお披露目をしたからである。
手を大きく広げ、七色に光る水のボールを会場中に飛ばすと、それに合わせて皇宮魔術師たちのフラワーシャワー。シャンデリアの輝きと相まって、キラッキラのオープニングである。
皇宮魔術師の師長がこの日のために、皇太子宮の私の元へ毎日通って教育係を務めてくれた。その指導のかいもあり、私は歌劇団の演出もこなせるくらいに腕を上げたのだ。ほんと意外に魔力あったわ——。
『大聖女』レベルの魔力だって鑑定された時には使い道を全く想像できなかったけれど、こんなところで役立つとはね——。
我らがルヴェルディ帝国は、魔術大国であった歴史を持つ。
今でこそ魔力を持つ者の数は減り、魔術の種類によっては禁忌とされ、許可なく使用する者がいれば即刻お縄だが——。
だからこそ帝国により手厚く保護される魔術師たちは、日頃の鍛錬に余念がない。彼らの腕は、いざ戦となれば強力な戦術の一つとして第一線で使われることにもなるからである。
いずれやってくる殿下と私の務めは、そんなことにはならないよう帝国を守ること。皇帝、皇后ってものは、本当に責任重大な役割で——。
——そして披露宴の料理やワイン、
積極的に近隣諸国からの輸入食材を取り入れ他国との調和をイメージ、そしてワインは全て帝国産で揃え、我が国の安定をアピールすることにした。
おおむね好意的に捉えられたようで、お客様が満足して下さったことが表情からも伝わって一安心。
一度目は、私が食べたいものか私が好きなもの、このどちらかしか選択肢がなかった。国としての恥など考えもせず——本物のク○妃殿下である。
なんだかんだ本当に準備は大変だったけれど、今日ばかりは外交問題など無粋な話をする人もいない。楽しい話題で溢れる時間。こんな日が毎日続いたら嬉しいのに——と怠け者の短絡的な発想に行き着いたことは、一度目も二度目もなく私個人の問題だ。
「ママァ~♪」
「マリシス、待たせましたね」
ギュッと抱きつく身体は小さいが、舌足らずではあっても言葉も順調に覚え、結婚式で誓いの言葉を真似るくらい達者になった。
いつもなら私から全く離れないのに今日はスッと身を引いたところを見ると、いつもとの違いを的確に察しているのだろう。存外、賢いものである。
「パパァ~バイバ~イ」
これには殿下もまんざらではない様子。——手を振りかえしている。
マリシスと暮らすようになってからの殿下は、ちゃんと笑えるようになった。以前は何か達観したような、口角を片方だけ上げるような笑い方をしていた。それが変わったということは、私にとっても嬉しい変化で。——マリシス効果、真に偉大である。
だから、たとえ殿下と私に子が生まれても、マリシスには第一皇子として皇位継承順位第一位のままでいてもらうつもりだ。
きっと良き後継者に成長する、そう信じているから。
「クリスティナ様、本日はおめでとうございます」
振り向くとそこには、隣国シーグレイプ王国の王女イレーヌ殿下が立っておられる。彼女とのご縁は、近隣諸国の女性王族が集まる会議から始まった。
たまたま席が隣で、あまり賢くない私に議題に沿った説明をしてくれた思いやり溢れるお姫様である。
「まぁ!イレーヌ殿下。本日はお越しいただき、ありがとう存じます」
「我が国の塩キャラメルをデザートに使っていただき、とても嬉しいですわ」
「こちらこそ会議の時に分けていただいて感謝しております。あの時に出会っていなければ、こんなに美味しいものがあると知らずに過ごしていましたもの」
シーグレイプ王国は海に面した国で、ミネラル豊富な塩が特産品だ。
塩だけでなく塩を使ったお菓子など加工品も輸出し、大きな利益を得ている。
他国では珍しい塩味のお菓子に、私は惚れてしまったのだ。
「マリシスも好んで食べているので、また注文させていただきますわ」
「光栄でございます。ではまた……」
イレーヌ王女が立ち去ると、アルフォンス殿下が驚いている。
「ティナ、君ってやっぱり何かがおかしいんだよ」
「……何がです?」
「だって、あの王女……何年も引きこもってて、誰も会ったことなかったんだ」
「昨年の大陸女性会議で仲良くなりましたの」
「そうそう、それが……たしか10年ぶりの外出だったはずだよ」
「へ? どうやったら10年も外出せずに過ごせるのです?」
「せっかくだから、本人に聞いてみれば?(私は全く興味ないけどね)」
「……殿下にとってはどうでも良さそうなネタですわね」
どうやら私の予想は的中しているようで、殿下は「ふふふ」と笑って軽く受け流すだけ。——ほんとに独特な人。