元悪役令嬢、悪女皇后を経て良妻賢母を目指す 〜二度目は息子に殺させない〜
第二皇子の誕生
結婚式と披露宴から、2年の月日が経った。
概ね順調に過ごしてはきた私たちだけれど、そう上手くはいかないもの。
あの日、私たちは暗殺未遂を経験した。
よりによって結婚式の日、初夜の最中の出来事だった。
裸でテラスへ逃げ出すと、ずっとしゃがんだまま事が片付くのを待って——。
室内が静かになった時には、中を覗くのが本当に怖かった。
殿下が倒れていたら?
暗殺者と目が合ったら?
今でもあの時に考えていたことをはっきりと思い出すことができる。
そうして最後は泣きながら、殿下に抱きしめてもらって——。
そのまま眠ったんだっけ。
夫であるアルフォンス殿下の逞しさを目の当たりにしたのは、あの時が初めてだった。一度目最期の時、鋭い刃に屈する最期を迎えた私だから、その時に知った色々なことを思い出してしまうくらいに。
そのくらい殿下の剣は、私を殺した息子の剣に似ていた——。
私にも分かるくらい、剣筋も流儀も——後ろ姿まで同じで。
あぁ彼らは同じ血を引く、まさに『皇族』なんだなって思った。
きっとマリシスは殿下の背中を見て育つ。
そしてまたいつか、同じ人間かと思うくらい似た姿で剣を握るのだろう。
——それがどうか、戦ではありませんように。
◇
「いやぁぁぁーーーっ!!」
「ティナッ!!どうした!? うなされたのか?」
あの暗殺未遂の日から度々、私は悪夢にうなされるようになった。
安心して眠れるようになるまで数ヶ月もかかって——。
殿下が抱きしめて眠ってくれた日々は、今でも私の心を温める素敵な思い出だ。
そしてその辛い時期が終わりを告げる頃、ちょうど私の精神が安定を取り戻した頃に、私たちは新しい命を授かった。少しずつ大きくなるお腹と少しずつ変化する体調に気を取られ、あの日の悪夢は嘘のように姿を消していった。
——それから時が満ちて、その子が今日この世に誕生しようとしている。
「い、痛ったーーい!?なんですの!!この痛みは!!」
私はあまりの痛みに叫び通しで。
扉の外にいる父上兄上、そして殿下も震え上がったそうだ。
「妃殿下、大丈夫ですから。もう少しですよー!!」
「あぁぁぁぁーーーー!!」
最後のひと叫びをした後、ようやく出てきてくれたのは男の子。
ルヴェルディ帝国第二皇子の誕生である。
そして「おぎゃあ」の第一声は外にも聞こえたようで、殿下がすぐに駆けつけてくださったのは、人生でこの上なく嬉しい瞬間でもあった。
「大変だったね、お疲れ様」
「アル、あなたの色を全て受け継いだ男の子ですわ。お顔も美しくて……」
天使のように美しい息子は、皇太子アルフォンス殿下から金色の髪とターコイズブルーの瞳を受け継ぎ、その顔立ちまで瓜二つだ。
「なんだか不思議な気持ちだな。こんなに小さいのに……もう私に似ているなんて。好きなものも似ているのかなぁ?」
「本当にそうですわね。賢いところも似れば、勉強やお料理も好きでしょうね」
「そうかそれなら、一緒にたくさんの経験をしようね」
愛おしそうに我が子を見つめて頬を撫でる殿下は、既に父親の顔になっていた。私はといえば、まだ産んだばかりで体力も尽きていて、そのまま眠ってしまった。
よく眠って目覚めると、部屋の中に花やらプレゼントが山積みで、たくさんの色が溢れていて気分が華やいだ。殿下は私に添い寝したようで、まだ横で寝息を立てている。起こさないようにそっと爪先立ちでカーペットの上を歩いていくと、小さなベッドに寝かされた我が子がモゾっと動いて——。殿下も何かを感じたのかムックリと起き上がった。
「ティナ、寝てなきゃダメじゃないか」
「大丈夫です、この子の顔が見たくて」
「ああ、私も触りたい」
殿下がしばらく子守を楽しむだろうと思った私は、プレゼントの山に触れようとしていた。ちょうど手前の箱に手を伸ばした瞬間、後ろからギュッと抱きしめられて——。
「ティナ、それは自分で取っちゃダメ」
「え?」
「それは全部、私からのプレゼントなんだけどね。私が毎朝一つずつ渡すから自分で開けないで」
「まぁ!これ全部、アルが用意してくださったのですか?」
殿下は満足気に一箱目を手渡してくださった。
箱を開けると中から出てきたのは、一着のドレス。
淡いピンクに白のフリルが付いたシュミーズドレスだ。
「部屋着に良いだろう?しばらくは楽な格好で部屋にいたらいいよ」
「アル、ありがとうございます」
今度は私が抱きしめて、感謝の気持ちを表した。
許されるなら、コルセットはもう勘弁して欲しいと思っていた。
食事も我慢しなければならないし、呼吸すらままならない時もある。
「コルセットが辛いの、気付いてくださっていたのですね……」
「ああ、愛しているから毎日よーく観察しているんだ」
「ふふふ、嬉しいですわ。私も愛しています」
せっかく殿下も一週間の育休を取ってくださったというので、今日はこのままイチャイチャしていよう。
概ね順調に過ごしてはきた私たちだけれど、そう上手くはいかないもの。
あの日、私たちは暗殺未遂を経験した。
よりによって結婚式の日、初夜の最中の出来事だった。
裸でテラスへ逃げ出すと、ずっとしゃがんだまま事が片付くのを待って——。
室内が静かになった時には、中を覗くのが本当に怖かった。
殿下が倒れていたら?
暗殺者と目が合ったら?
今でもあの時に考えていたことをはっきりと思い出すことができる。
そうして最後は泣きながら、殿下に抱きしめてもらって——。
そのまま眠ったんだっけ。
夫であるアルフォンス殿下の逞しさを目の当たりにしたのは、あの時が初めてだった。一度目最期の時、鋭い刃に屈する最期を迎えた私だから、その時に知った色々なことを思い出してしまうくらいに。
そのくらい殿下の剣は、私を殺した息子の剣に似ていた——。
私にも分かるくらい、剣筋も流儀も——後ろ姿まで同じで。
あぁ彼らは同じ血を引く、まさに『皇族』なんだなって思った。
きっとマリシスは殿下の背中を見て育つ。
そしてまたいつか、同じ人間かと思うくらい似た姿で剣を握るのだろう。
——それがどうか、戦ではありませんように。
◇
「いやぁぁぁーーーっ!!」
「ティナッ!!どうした!? うなされたのか?」
あの暗殺未遂の日から度々、私は悪夢にうなされるようになった。
安心して眠れるようになるまで数ヶ月もかかって——。
殿下が抱きしめて眠ってくれた日々は、今でも私の心を温める素敵な思い出だ。
そしてその辛い時期が終わりを告げる頃、ちょうど私の精神が安定を取り戻した頃に、私たちは新しい命を授かった。少しずつ大きくなるお腹と少しずつ変化する体調に気を取られ、あの日の悪夢は嘘のように姿を消していった。
——それから時が満ちて、その子が今日この世に誕生しようとしている。
「い、痛ったーーい!?なんですの!!この痛みは!!」
私はあまりの痛みに叫び通しで。
扉の外にいる父上兄上、そして殿下も震え上がったそうだ。
「妃殿下、大丈夫ですから。もう少しですよー!!」
「あぁぁぁぁーーーー!!」
最後のひと叫びをした後、ようやく出てきてくれたのは男の子。
ルヴェルディ帝国第二皇子の誕生である。
そして「おぎゃあ」の第一声は外にも聞こえたようで、殿下がすぐに駆けつけてくださったのは、人生でこの上なく嬉しい瞬間でもあった。
「大変だったね、お疲れ様」
「アル、あなたの色を全て受け継いだ男の子ですわ。お顔も美しくて……」
天使のように美しい息子は、皇太子アルフォンス殿下から金色の髪とターコイズブルーの瞳を受け継ぎ、その顔立ちまで瓜二つだ。
「なんだか不思議な気持ちだな。こんなに小さいのに……もう私に似ているなんて。好きなものも似ているのかなぁ?」
「本当にそうですわね。賢いところも似れば、勉強やお料理も好きでしょうね」
「そうかそれなら、一緒にたくさんの経験をしようね」
愛おしそうに我が子を見つめて頬を撫でる殿下は、既に父親の顔になっていた。私はといえば、まだ産んだばかりで体力も尽きていて、そのまま眠ってしまった。
よく眠って目覚めると、部屋の中に花やらプレゼントが山積みで、たくさんの色が溢れていて気分が華やいだ。殿下は私に添い寝したようで、まだ横で寝息を立てている。起こさないようにそっと爪先立ちでカーペットの上を歩いていくと、小さなベッドに寝かされた我が子がモゾっと動いて——。殿下も何かを感じたのかムックリと起き上がった。
「ティナ、寝てなきゃダメじゃないか」
「大丈夫です、この子の顔が見たくて」
「ああ、私も触りたい」
殿下がしばらく子守を楽しむだろうと思った私は、プレゼントの山に触れようとしていた。ちょうど手前の箱に手を伸ばした瞬間、後ろからギュッと抱きしめられて——。
「ティナ、それは自分で取っちゃダメ」
「え?」
「それは全部、私からのプレゼントなんだけどね。私が毎朝一つずつ渡すから自分で開けないで」
「まぁ!これ全部、アルが用意してくださったのですか?」
殿下は満足気に一箱目を手渡してくださった。
箱を開けると中から出てきたのは、一着のドレス。
淡いピンクに白のフリルが付いたシュミーズドレスだ。
「部屋着に良いだろう?しばらくは楽な格好で部屋にいたらいいよ」
「アル、ありがとうございます」
今度は私が抱きしめて、感謝の気持ちを表した。
許されるなら、コルセットはもう勘弁して欲しいと思っていた。
食事も我慢しなければならないし、呼吸すらままならない時もある。
「コルセットが辛いの、気付いてくださっていたのですね……」
「ああ、愛しているから毎日よーく観察しているんだ」
「ふふふ、嬉しいですわ。私も愛しています」
せっかく殿下も一週間の育休を取ってくださったというので、今日はこのままイチャイチャしていよう。