【番外編】SP 橘は、“甘やかし専門医”です
訓練終わりの夕刻、航太は警護室の片隅でノートPCを前に腕を組み、黙り込んでいた。
OJTの指導案を組み立てようとしていたが、具体的な導入や訓練展開に決定打が見えず、頭を抱えていた。

そんな時、不意に頭の片隅に浮かんだのは、先日届いたクルーズのチケットだった。
——あれ、確か「パシフィックビーナス」って名前だったな。

ふとデスクの端に置かれた封筒を手に取り、詳細を読み返す。

「…最高ランクのロイヤルスイート…」

そこには、贅沢の限りを尽くした内容が並んでいた。



「パシフィックビーナス」 クルーズチケット内容:

・ロイヤルスイートルーム(最上階・海側バルコニー付き)
・専属バトラー付き:滞在中のサポート、ルームサービスの手配
・フランス料理フルコースディナー(専用ダイニング):ソムリエによるワインペアリング付き
・プライベート・スパ&マッサージ付き(1回無料)
・寄港地観光オプション:港町散策、クルージングツアーを選択可
・ナイトシアター最前列確約席
・乗船記念フォト&特製アルバムサービス



航太はゆっくりと読み進めるうちに、ふと一つの“アイデア”が閃いた。
この部屋、このタイミング……もし、あのことをこの場所で伝えられたら——。

瞬間、心臓がわずかに高鳴る。
だが、すぐに冷静になって、自分には岳と直接連絡を取る手段がないことに気づく。

「……いつも、紗良経由だったからな」

スマートフォンを握りながら、航太は一人呟く。
一ノ瀬岳への想いと、これから訪れる特別な旅の意味が、静かに重なっていった。
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