【番外編】SP 橘は、“甘やかし専門医”です
杉浦は腕を組み、黙って数秒考え込んだあと、言った。

「その年齢で発症して、今も続いてるなら――家族性地中海熱(FMF)とか、ありそうだけどな」

「家族性地中海熱……?」

航太が聞き返すと、杉浦はうなずいて説明を続けた。

「遺伝性の自己炎症性疾患の一種。名前の通り、もともと地中海沿岸の民族に多い病気なんだけど、日本でも“孤発例”って言って家族歴なくても発症することがある。特に非典型例って呼ばれるタイプは、発熱のパターンがバラバラで診断されにくい」

航太は興味深そうに聞いていたが、次の言葉に少し眉をひそめた。

「無治療のまま発熱発作を繰り返してると、“アミロイドーシス”っていって、アミロイドタンパク質が臓器に沈着することがある。腎臓や心臓に。それで腎不全や心不全になるケースもあるんだ」

「……それ、治療ってあるのか?」

「あるよ。診断されれば、第一選択薬はコルヒチンだな」

「コルヒチン?あれって……痛風の薬じゃなかったか?」

杉浦は苦笑いしてうなずく。

「そう。だけど、家族性地中海熱にも効果がある。正直、効果機序はまだ完全にはわかってないけど、発作を抑えるし、アミロイドの沈着も防げるってデータがある」

航太はテーブルに置かれたカップをゆっくり回しながら、静かに息を吐いた。

「……やっぱり、ちゃんと検査させないとダメだな」

その声には、医師としての冷静さと、彼女を想う男としての不安がにじんでいた。
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