【番外編】SP 橘は、“甘やかし専門医”です
けれど――

「やっぱり、ダメだ」
航太は、唇を離すと同時に、ぎゅっと抱きしめていた紗良の体をそっと引き剥がすように距離を取った。

「……なんで?」
紗良がほんの少しだけ眉をひそめる。不満の色をにじませながらも、それ以上言葉を重ねることはなかった。

代わりに、なにかを思いついたようにふっと立ち上がると、テーブルの上に残っていたスイートポテトの皿――自分の分も、航太の分も――をまとめてシンクへ運んだ。

その間も、航太はソファに座ったまま、手のひらを見つめていた。
理性が勝ったことへの安堵と、それでもなお胸に燻る想いがせめぎあっている。

やがて、食器を片づけ終えた紗良が静かに戻ってくる。

今度は、言葉もなく、すとんと航太の隣に腰を下ろした。

ちら、と航太の横顔を見やる。
そして小さく微笑み、そっと彼の頭に手を伸ばした。

「ほんとに、お疲れ様」
優しく撫でながら、まるで子どもを労るように囁く。

「時差ぼけで疲れちゃったのかな」
わざとらしいほどのやさしい口調で、航太を見つめるその表情には、明らかに何かを“企んでいる”気配があった。

航太はその“罠”に薄々気づきながらも、抗うことはしなかった。

撫でられるたび、緊張がほどけていく。
頭を委ねるように傾けながら、航太は静かに目を閉じた。

「ずるいな……紗良は」

ぽつりと、そんな言葉が唇から漏れた。
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