【番外編】SP 橘は、“甘やかし専門医”です
短い休憩の後、橘の一声で訓練は再開された。
「じゃあ、再開するぞ。次は屋外での警護移動訓練。
状況設定は“対象者が街頭イベントに出席中、突発的に聴衆からの突撃者が現れた”というケース。
三人一組で警護フォーメーションを取れ」
緊張感が再び張り詰める。
新人たちは、今しがた掛けられた言葉を胸に刻みながらも、与えられた役割に集中しようとしていた。
「――抜けたぞ!」
「左後方に不審者!」
「対象を車両まで確保!」
模擬の聴衆役スタッフの中から突如現れた“襲撃者”に、チームは即座に反応する。
だが、配置の甘さ、視線の散漫さが露呈し、対象者役の警察官が“倒される”場面もあった。
「そこで止めろ! ……今の動き、どこが甘かったか分かるか?」
訓練を止めた航太は、冷静だが厳しい口調でチームに振り返る。
新人たちは黙って下を向いた。航太は一人ひとりの顔を見て、言葉を続けた。
「でも、繰り返せ。何度でも失敗しろ。ここで全部出しておけ」
そして、夕刻。
すべての訓練が終了し、施設の夕日が差し込む中、航太は全員を集めた。
「よく頑張ったな。体はきついだろうが、今日の経験が、いざという時に命を守る礎になる」
一拍置いて、航太の声色がわずかに低くなる。
「いいか。君たちが警護官をやっているうちに、必ず“襲撃”は起きる。どんなに準備をしていても、避けられない時はある。誰かが、命を落とさないまでも怪我をする。……これは、対象者か警護官かに関わらず、必ず起きる」
言葉の重みが空気を支配する。
「そんな時、君たちに何を求めるか。それは、“誰も責めない”ということだ」
新人たちが顔を上げた。
「責めるな。自分も、仲間も、現場にいた誰もだ。……失敗すれば、世間からは酷い言葉が飛ぶ。『警護官は役に立たない』と、平然とそう言うやつもいる」
航太はふっと短く笑ったが、その瞳には深い影があった。
「俺も、かつてそれに苦しみ続けた。……その怖さは、誰よりも知っているつもりだ」
そして、まっすぐに前を見据えた。
「なぜなら――安西大臣の事件の警護班に、私はいたからだ」
その瞬間、集まった中にひときわ強く動揺を示す一人がいた。
三浦翔太だ。
わずかに目を見開き、喉が動く。声にはしなかったが、「……橘教官が……?」という戸惑いが明確に浮かんでいた。
だが航太は、その視線に気づきながらも、あえて触れずに続けた。
「俺は、あの日、守りきれなかった。でも、それでも警護官をやめなかった。それは、誰かが失敗の上に立って、次の命を守らなきゃいけないと思ったからだ」
「……」
「怖いことだよ。でも、ここにいる君たちは、真面目で、責任感が強い。だからこそ、今のうちに言っておきたい。間違っても自分一人のせいだと抱えるな。現場は“チーム”でやってる。誰かが支える。お前らも、誰かを支えられる」
最後に、航太はやわらかく口元を緩めて言った。
「一緒に現場に立つ日を、楽しみにしてるよ」
新人たちの瞳に、覚悟と緊張、そして確かな尊敬の色が灯っていた。
「じゃあ、再開するぞ。次は屋外での警護移動訓練。
状況設定は“対象者が街頭イベントに出席中、突発的に聴衆からの突撃者が現れた”というケース。
三人一組で警護フォーメーションを取れ」
緊張感が再び張り詰める。
新人たちは、今しがた掛けられた言葉を胸に刻みながらも、与えられた役割に集中しようとしていた。
「――抜けたぞ!」
「左後方に不審者!」
「対象を車両まで確保!」
模擬の聴衆役スタッフの中から突如現れた“襲撃者”に、チームは即座に反応する。
だが、配置の甘さ、視線の散漫さが露呈し、対象者役の警察官が“倒される”場面もあった。
「そこで止めろ! ……今の動き、どこが甘かったか分かるか?」
訓練を止めた航太は、冷静だが厳しい口調でチームに振り返る。
新人たちは黙って下を向いた。航太は一人ひとりの顔を見て、言葉を続けた。
「でも、繰り返せ。何度でも失敗しろ。ここで全部出しておけ」
そして、夕刻。
すべての訓練が終了し、施設の夕日が差し込む中、航太は全員を集めた。
「よく頑張ったな。体はきついだろうが、今日の経験が、いざという時に命を守る礎になる」
一拍置いて、航太の声色がわずかに低くなる。
「いいか。君たちが警護官をやっているうちに、必ず“襲撃”は起きる。どんなに準備をしていても、避けられない時はある。誰かが、命を落とさないまでも怪我をする。……これは、対象者か警護官かに関わらず、必ず起きる」
言葉の重みが空気を支配する。
「そんな時、君たちに何を求めるか。それは、“誰も責めない”ということだ」
新人たちが顔を上げた。
「責めるな。自分も、仲間も、現場にいた誰もだ。……失敗すれば、世間からは酷い言葉が飛ぶ。『警護官は役に立たない』と、平然とそう言うやつもいる」
航太はふっと短く笑ったが、その瞳には深い影があった。
「俺も、かつてそれに苦しみ続けた。……その怖さは、誰よりも知っているつもりだ」
そして、まっすぐに前を見据えた。
「なぜなら――安西大臣の事件の警護班に、私はいたからだ」
その瞬間、集まった中にひときわ強く動揺を示す一人がいた。
三浦翔太だ。
わずかに目を見開き、喉が動く。声にはしなかったが、「……橘教官が……?」という戸惑いが明確に浮かんでいた。
だが航太は、その視線に気づきながらも、あえて触れずに続けた。
「俺は、あの日、守りきれなかった。でも、それでも警護官をやめなかった。それは、誰かが失敗の上に立って、次の命を守らなきゃいけないと思ったからだ」
「……」
「怖いことだよ。でも、ここにいる君たちは、真面目で、責任感が強い。だからこそ、今のうちに言っておきたい。間違っても自分一人のせいだと抱えるな。現場は“チーム”でやってる。誰かが支える。お前らも、誰かを支えられる」
最後に、航太はやわらかく口元を緩めて言った。
「一緒に現場に立つ日を、楽しみにしてるよ」
新人たちの瞳に、覚悟と緊張、そして確かな尊敬の色が灯っていた。