【番外編】SP 橘は、“甘やかし専門医”です
訓練終了後、夕焼けが警護訓練施設の壁を赤く染める頃。
橘航太は、講評とその日の訓練記録を簡潔に打ち込み終え、モニターを閉じて立ち上がった。

更衣室でスーツを脱ぎ、ネクタイを緩める。
深く息を吐いてから、私服へと着替える。
黒のクルーネックTシャツに、ミッドグレーの軽量ジャケット。
ボトムスは細身のブラックジーンズ、足元には白いスニーカー。
ごくシンプルで動きやすいが、清潔感と引き締まった雰囲気を損なわない、航太らしいラフな服装だった。

ロッカーの扉を閉め、スマホを取り出す。
数日前に送っていたメール――東都医科大学の鶴田悠真教授宛の問い合わせ――に、返事が届いていないかを確認する。

通知一覧に、それらしき件名が目に入った。
「【鶴田研究室】お問い合わせの件について」
指先で開くと、表示されたのはスタッフ名義の定型的な返信だった。

橘 様
この度は、鶴田悠真教授ならびに鶴田研究室へのお問い合わせをいただき、誠にありがとうございます。

現在、鶴田研究室では、新規患者様の受付および一般のお問い合わせ対応を一時停止させていただいております。
研究と、昨今の公務(衆議院議員就任)に伴う業務の都合により、再開の時期は未定となっております。

何卒ご理解のほど、よろしくお願いいたします。

東都医科大学 鶴田研究室 事務スタッフ一同

文面に、航太は一瞬だけ指を止めた。

「……そうか」

画面を閉じる。
ごく短く、だが明らかに落胆の色を含んだため息が漏れた。

――それでも、まだ終わりじゃない。

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