【番外編】SP 橘は、“甘やかし専門医”です
帰宅してすぐ、紗良はバッグを放り投げるようにして部屋に入ると、スーツの上着を脱ぎ捨てるようにハンガーにかけた。
誰もいない静かな部屋。
キッチンの電気は点けず、浴室に直行してシャワーを浴びる。
熱めの湯が肩を打つたびに、じんわりと溜まった疲れがにじみ出る。
顔にかかるお湯の中で、紗良はそっと目を閉じた。
「……っ」
ほてるような、でもどこか火照りとは違う熱が残っている気がして、
シャワーを終えると、髪も半乾きのまま、下着とゆるいTシャツ一枚でソファに身を投げ出す。
冷たいレザーが肌に触れ、ひやっとした感触が気持ちいい。
航太がいない夜。
夕飯はコンビニで済ませた適当なパスタと、サラダのパック。
野菜があるだけマシ――
なんて思いながらも、栄養バランスのことを知っている航太にバレたら、確実に雷が落ちるだろうなと苦笑する。
「……内緒、ね」
そう口に出してから、航太に言われた言葉がふと蘇る。
――周期性発熱症候群かもしれない。
次に熱が出たら、検査を受けよう。
その言葉が、胸の奥にずしりと残っていた。
大学の頃から、突然出る高熱。
誰にも相談できないまま、ひとりでやり過ごしてきた。
最初にその熱が出たのは、たしか……父が第二次安西内閣で再び組閣を任され、連日深夜帰宅か外泊だった頃。
母は体調を崩し、病院と自宅を行き来する毎日だった。
「心配させちゃいけない」
それだけで、自分の不調には蓋をした。
病院に行っても、ただの風邪だと決めつけられた。
それならもういい、そう思って、解熱剤で抑えて授業に出て、実習にも参加した。
それが普通になった。
あの後、SPがついて、日々が変わっていっても――
熱が出た日は、バレないように、こっそり薬を飲んで出勤していた。
あの時と同じように。
――いや、もっと怖かったのかもしれない。
これはただの風邪じゃない、きっと何かある。
そう気づきながらも、紗良にはなす術も、知識も、行動する余裕もなかった。
誰にも気づかれないまま、自分だけで抱えていくしかないと思っていた。
……でも、今は。
シャワーの余韻が消えきらない体をソファに預けながら、紗良は目を閉じた。
航太の言葉が、何度も胸の中に響く。
「……あの人がいるから、きっと大丈夫だよね」
小さく呟くように言ったその言葉は、どこか安心に似た響きを含んでいた。
誰もいない静かな部屋。
キッチンの電気は点けず、浴室に直行してシャワーを浴びる。
熱めの湯が肩を打つたびに、じんわりと溜まった疲れがにじみ出る。
顔にかかるお湯の中で、紗良はそっと目を閉じた。
「……っ」
ほてるような、でもどこか火照りとは違う熱が残っている気がして、
シャワーを終えると、髪も半乾きのまま、下着とゆるいTシャツ一枚でソファに身を投げ出す。
冷たいレザーが肌に触れ、ひやっとした感触が気持ちいい。
航太がいない夜。
夕飯はコンビニで済ませた適当なパスタと、サラダのパック。
野菜があるだけマシ――
なんて思いながらも、栄養バランスのことを知っている航太にバレたら、確実に雷が落ちるだろうなと苦笑する。
「……内緒、ね」
そう口に出してから、航太に言われた言葉がふと蘇る。
――周期性発熱症候群かもしれない。
次に熱が出たら、検査を受けよう。
その言葉が、胸の奥にずしりと残っていた。
大学の頃から、突然出る高熱。
誰にも相談できないまま、ひとりでやり過ごしてきた。
最初にその熱が出たのは、たしか……父が第二次安西内閣で再び組閣を任され、連日深夜帰宅か外泊だった頃。
母は体調を崩し、病院と自宅を行き来する毎日だった。
「心配させちゃいけない」
それだけで、自分の不調には蓋をした。
病院に行っても、ただの風邪だと決めつけられた。
それならもういい、そう思って、解熱剤で抑えて授業に出て、実習にも参加した。
それが普通になった。
あの後、SPがついて、日々が変わっていっても――
熱が出た日は、バレないように、こっそり薬を飲んで出勤していた。
あの時と同じように。
――いや、もっと怖かったのかもしれない。
これはただの風邪じゃない、きっと何かある。
そう気づきながらも、紗良にはなす術も、知識も、行動する余裕もなかった。
誰にも気づかれないまま、自分だけで抱えていくしかないと思っていた。
……でも、今は。
シャワーの余韻が消えきらない体をソファに預けながら、紗良は目を閉じた。
航太の言葉が、何度も胸の中に響く。
「……あの人がいるから、きっと大丈夫だよね」
小さく呟くように言ったその言葉は、どこか安心に似た響きを含んでいた。