【番外編】SP 橘は、“甘やかし専門医”です
夜。
部屋には暖房の優しい音と、時折外から聞こえる風の音だけが静かに響いていた。
ベッドでは紗良がすやすやと眠っている。
熱で頬をほんのり赤らめ、寝苦しそうに息を吐くその姿を、航太はそっと見守ったあと、立ち上がり、リビングの片隅にあるデスクに向かった。
パソコンを立ち上げると、慣れた手つきで「Google Scholar(グーグルスカラー)」を開く。
それから「PubMed(パブメド)」──医療関係者なら誰もが使ったことのある国際的な医学論文データベースにもアクセスする。
医者だった頃の癖が、自然と手を動かしていた。
「心配しすぎかな……」
ぽつりとつぶやきながらも、航太は手を止めない。
症状に「発熱」「原因不明」「急性」「風邪症状なし」などのキーワードを入れて、次々と論文を読み漁っていく。
ふと、紗良の話したある出来事を思い出す。
──「ねえ聞いて!この前変な風邪引いたんだよ!風邪じゃないのに、いきなり39℃出て、でもほんとに熱だけ!喉も咳も鼻水もないの。しかも3日でスッと治ったの!ね、すごくない?」──
にこにこしながら、少し得意げに語っていたあの時の紗良の表情が、まざまざと蘇る。
……それは一度きりじゃなかった。
「あれ?また熱出ちゃった。でも今回も喉も咳もなくて……すぐ下がったから平気だったよ」と笑っていたことも。
何度か、そういう“変な風邪”の話をしていた。
(高熱だけ……。風邪の所見に乏しい……。それが繰り返されてる……)
その時、航太の中で、医者としての本能のようなものが小さく警鐘を鳴らし始める。
画面に映し出された論文のタイトルを睨むように見つめながら、彼の中の警護官ではなく、“元医者・橘航太”が目を覚まし始めていた。
部屋には暖房の優しい音と、時折外から聞こえる風の音だけが静かに響いていた。
ベッドでは紗良がすやすやと眠っている。
熱で頬をほんのり赤らめ、寝苦しそうに息を吐くその姿を、航太はそっと見守ったあと、立ち上がり、リビングの片隅にあるデスクに向かった。
パソコンを立ち上げると、慣れた手つきで「Google Scholar(グーグルスカラー)」を開く。
それから「PubMed(パブメド)」──医療関係者なら誰もが使ったことのある国際的な医学論文データベースにもアクセスする。
医者だった頃の癖が、自然と手を動かしていた。
「心配しすぎかな……」
ぽつりとつぶやきながらも、航太は手を止めない。
症状に「発熱」「原因不明」「急性」「風邪症状なし」などのキーワードを入れて、次々と論文を読み漁っていく。
ふと、紗良の話したある出来事を思い出す。
──「ねえ聞いて!この前変な風邪引いたんだよ!風邪じゃないのに、いきなり39℃出て、でもほんとに熱だけ!喉も咳も鼻水もないの。しかも3日でスッと治ったの!ね、すごくない?」──
にこにこしながら、少し得意げに語っていたあの時の紗良の表情が、まざまざと蘇る。
……それは一度きりじゃなかった。
「あれ?また熱出ちゃった。でも今回も喉も咳もなくて……すぐ下がったから平気だったよ」と笑っていたことも。
何度か、そういう“変な風邪”の話をしていた。
(高熱だけ……。風邪の所見に乏しい……。それが繰り返されてる……)
その時、航太の中で、医者としての本能のようなものが小さく警鐘を鳴らし始める。
画面に映し出された論文のタイトルを睨むように見つめながら、彼の中の警護官ではなく、“元医者・橘航太”が目を覚まし始めていた。