【番外編】SP 橘は、“甘やかし専門医”です
気づけば、時計の針はすでに日付を跨いでいた。
航太は背伸びをひとつして、軽く目をこすった。

いくつもの論文や報告書に目を通したが、これといった情報には辿り着けなかった。
原因不明の高熱、風邪様症状の欠如――それに関する研究はいくつかあれど、どれも断定には程遠い内容だった。

「……今すぐ結論を出す必要はないか」
独り言のように呟いて、航太はパソコンの画面をゆっくり閉じた。

今回の出張明けには、幸いにも1週間の休暇がもらえている。
紗良のそばにいられるこの時間で、じっくりと見守りながら判断していけばいい。

そう思うと、ほんの少し肩の力が抜けた。

立ち上がって部屋の電気を消すと、寝室に続くドアの前で一瞬立ち止まる。
静かな寝息が漏れるその中に、微かに「航太くん……」と寝言のような声が混じった。

頬がゆるみ、ふっと笑みがこぼれる。
「……甘ったれめ」
そう小さく呟いて、航太はベッドの隣に腰を下ろし、紗良の額に手を当てて熱を確認した。

まだ少し高い。けれど、それもまた、彼女の一部だと思えた。

「明日には、もう少し下がってますように」
願うように囁いて、航太はその隣で静かに目を閉じた。
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