【番外編】SP 橘は、“甘やかし専門医”です
航太は、ソファの上で膝立ちになって自分を呼ぶ紗良の姿を見て、思わず吹き出しそうになるのを堪えた。子犬のようにぴょこぴょことした動き。

ああ、可愛すぎる。
でも今日はあくまで“お預け”。

「言うこと聞けない人には、ご褒美はありませんよ」

きっぱりと告げると、紗良は「うぅ……」と、堪えているような、怒っているような微妙な表情を浮かべて、口を尖らせる。
まるで仏像でも目指しているのかというほど、無理矢理に優しい顔をつくっているのが、逆に笑える。

「俺の気を変えられたら、ご褒美あげる」

そう言うと、紗良は一瞬黙り込んで考え込み、じーっと航太を見つめ始めた。
頭の上から足の先まで、まるでスキャンするように、頷きながら舐めるような視線を送ってくる。

「……何?」

怪しげな視線に気圧され、航太が声をかけると、

「ふふっ」と口元を緩めた紗良は、航太の肩に手を置いた。

「キスはなしね」と先回りして釘を刺すと、

「わかってるってば」と、いたずらっ子のように笑う紗良。

そのまま彼女は航太の肩から腕、胸元へと、上半身をまるで品評するように触れていく。

「うんうん、よく鍛えられたいい筋肉ですね〜。これなら警護官としても間違いないですね」

航太が怪訝そうな顔を向ける。次の瞬間、紗良の手が脇腹に潜り込んできた。

「……!」

くすぐりの奇襲。
しかし航太は微動だにしない。
それどころか、眉間にはさらに深いシワが寄った。

「えっ、なんで? なんで効かないの!?」
紗良が焦ったように言うと、

「残念でした」と航太は涼しい顔で返す。

すると紗良は、その場でうなだれながら泣き真似。

「なんで〜〜! こんなに頑張ったのに〜!」

「……頑張りの方向、間違ってるよ」と航太が呆れたように言いながらも、口元が緩んでしまう。

——その瞬間、何かもう一押しのイタズラをしかけようとする紗良の顔が、にやりと光っていた。
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