【番外編】SP 橘は、“甘やかし専門医”です

見抜かれた体温、包まれる愛情

午後、一ノ瀬紗良の執務室はひっきりなしに人の出入りが続いていた。

まずは、システム部の課長がサイバー攻撃後の補填対応についての報告に来る。
「一部アクセスログに不審な挙動が残っていまして…」と、分厚い資料を抱えながら紗良の机に立ち、
報告は丁寧ながらも緊張感があった。

続いて、財務部からの来客対応。
取引先との契約見直しの打ち合わせで、スーツ姿の男性2人が部屋に入り、名刺交換から始まる短時間の意見交換。
紗良は要点を手早くまとめ、必要な確認を済ませると、きっちりとした笑顔で送り出した。

その間にも秘書の坂口がドアをノックし、急ぎの書類を何度か持ってくる。
岡島も「この件、どうしますか?」と小声でデータを見せてくる。
ひとつひとつ、冷静に判断しながらも、紗良の目は次第に疲れを帯びていった。

ようやく来客対応がすべて終わったのは、時計の針が17時を回った頃。

夕焼けが窓の外を茜色に染め始めている。
紗良は、最後にパソコンに向かって今日の記録と指示事項を打ち込み、エンターキーを軽く叩いて保存を済ませる。

ふぅ、と息を吐いて、椅子の背にもたれた。

「……あれ、腰痛い」

長時間のデスクワークに、身体がじんわりと不満を訴える。
背中から腰にかけての重さに眉をしかめ、両腕を伸ばして小さく伸びをする。
どことなく、背筋や肩、脚までじわじわと重たい。

(座りすぎたかな……)
そんなことを考えながら、紗良は荷物をまとめて椅子から立ち上がった。

オフィスを出て、廊下を歩きながら、妙な違和感が身体の奥に残っていることに気づく。
ざわざわと落ち着かない、微細な震えのような感覚。


——いやな予感というほどではない。
けれど、身体の内側が、少しだけ警鐘を鳴らしている。

その理由が、まだわからないまま——
紗良は定時のチャイムとともに、帰路についた。
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