【番外編】SP 橘は、“甘やかし専門医”です
2人で鍋を囲む食卓には、湯気と一緒にゆるやかな空気が立ちのぼっていた。
航太が小皿によそった出汁の染みた白菜と鶏団子を口に運ぶと、目を細めるようにして言った。

「……うまいな。これ、だし何使った?」

紗良は嬉しそうに頬を緩めて、「昆布と鰹。あと、ちょっとだけ白だし足した」と答える。

「はは、成長したな。昔の紗良なら、白だしだけで済ませてたろ」
「それ言わないの! ちゃんと昆布も水出ししたんだから」

ぷくっと膨れたように言う紗良に、航太がふっと笑って箸をすすめる。
湯気の向こうで、紗良も笑った。

「この鶏団子、ふわふわ。大葉入れたの、正解だったかも」
「うん。香りがいい。あと、これ——」と航太は豆腐を指しながら、「絶妙な火の入り具合。プロかと思った」

「褒めすぎ。……けど、嬉しい」
紗良は照れたように笑って、湯気越しに航太の横顔を見た。

「こうして一緒にごはん食べるの、やっぱりいいね」
紗良がふとこぼすと、航太は少し箸を止めたあと、静かにうなずいた。

「そうだな。ちゃんと食べてる顔、見られるし」

「またそれ? 心配しすぎ」
「して当然だろ」

さらっと返されて、紗良は肩をすくめる。でもその頬は、じんわりと熱を帯びていた。

静かに、箸と器の触れる音が心地よく響き、ふたりの会話と鍋の湯気が、温かい部屋に満ちていった。
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