【番外編】SP 橘は、“甘やかし専門医”です
食後の穏やかな空気の中、紗良はキッチンに立ち、洗い物をしていた。
流れる水音、鍋をすすぐ音、そのすべてがいつもと変わらないはずなのに——
航太はダイニングの椅子に座ったまま、じっとその背中を見つめていた。
何かがおかしい。
動きがどこか重たく、洗い物をしている最中にも腰に手を当てている仕草が何度か見えた。
そして何より、ふと横顔が見えたときのあの目
——どこかトロンとして、焦点が合っていない。
胸の奥で、かつて医師だった自分の勘がピクリと反応する。
——これは、熱発だ。
航太はすっと立ち上がり、迷わずキッチンに向かう。
そして、無言のまま紗良の後ろに立ち、そっと額に手のひらを当てた。
「——っ!」
水道の蛇口から流れ続ける水の音の中、紗良は驚いたように動きを止める。
そのまま硬直した背中越しに、航太が低く、しかし確かな声で言った。
「紗良。……熱、あるよ」
その言葉に、紗良は一瞬だけ振り返り、ぽかんとした顔で言う。
「……え? まさか……」
でも、そのまさかだった。
額に触れた彼の手は、確かに熱を感じていた。
体の奥から、じわじわと上がってきたような体温。
紗良は、自覚のないまま、無理をしていた。
自分で「疲れてるだけ」と思い込んで、だるさにも腰の痛みにも、蓋をしていた。
航太は、そっと水道の蛇口を閉めながら言う。
「洗い物なんていい。横になって」
声の調子は優しくて、けれど反論を許さない強さもあった。
流れる水音、鍋をすすぐ音、そのすべてがいつもと変わらないはずなのに——
航太はダイニングの椅子に座ったまま、じっとその背中を見つめていた。
何かがおかしい。
動きがどこか重たく、洗い物をしている最中にも腰に手を当てている仕草が何度か見えた。
そして何より、ふと横顔が見えたときのあの目
——どこかトロンとして、焦点が合っていない。
胸の奥で、かつて医師だった自分の勘がピクリと反応する。
——これは、熱発だ。
航太はすっと立ち上がり、迷わずキッチンに向かう。
そして、無言のまま紗良の後ろに立ち、そっと額に手のひらを当てた。
「——っ!」
水道の蛇口から流れ続ける水の音の中、紗良は驚いたように動きを止める。
そのまま硬直した背中越しに、航太が低く、しかし確かな声で言った。
「紗良。……熱、あるよ」
その言葉に、紗良は一瞬だけ振り返り、ぽかんとした顔で言う。
「……え? まさか……」
でも、そのまさかだった。
額に触れた彼の手は、確かに熱を感じていた。
体の奥から、じわじわと上がってきたような体温。
紗良は、自覚のないまま、無理をしていた。
自分で「疲れてるだけ」と思い込んで、だるさにも腰の痛みにも、蓋をしていた。
航太は、そっと水道の蛇口を閉めながら言う。
「洗い物なんていい。横になって」
声の調子は優しくて、けれど反論を許さない強さもあった。