【番外編】SP 橘は、“甘やかし専門医”です
翌朝――。
まだ夜が少し残るような淡い光のなかで、航太は目を覚ました。警護官としての習慣は、休みの日にも容赦なく身体を動かす。

時刻は、午前6時過ぎ。
ベッドの隣では、紗良が布団にくるまって静かに寝息を立てている。

そっと起き上がると、航太はまず紗良の額に手を当てた。
熱は……やはりまだ高い。次に手首を取って、脈を確認する。やや早いが、危険なほどではない。

「熱、測るよ」
小さく囁くように言って、体温計を取り出すと、布団の中で紗良がもぞ、と身じろぎをした。
眠気と熱に浮かされたような顔で、うっすら目を開けかけたが――

「寝てていいよ、紗良」
航太の静かな声に、紗良は従うようにまたまぶたを閉じる。

やがて体温計がピッと鳴る。表示された数字に、航太は目を細めた。

39.2℃

「……やっぱり、高いままか」
インフルエンザやウイルス性の疾患であればこの程度の熱はよくある。けれど、咳も鼻水も、喉の痛みもなし。
あまりに静かな高熱が、どこか引っかかる。

一瞬、思考を巡らせるように首をかしげたが、それ以上は考え込まないことにした。
まずは、紗良が少しでも食べられるものを用意しよう――それが今朝の最優先だ。

静かに寝室を出て、キッチンへ向かう。
冷蔵庫を開け、昨夜の残りのフルーツを確認しながら、今日は消化に優しいおかゆでも作ろうかと手を動かし始めた。

フライパンや鍋の音は最小限に。
眠る紗良の邪魔をしないよう、航太はプロの料理人のような静けさで、朝の支度を進めていく。
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