【番外編】SP 橘は、“甘やかし専門医”です
航太は、紗良の手をやさしく取ってベッドルームへと導いた。
いつもなら軽口を叩いたり、ふざけ合いながらの時間だけど、今はただ真っ直ぐ、静かに手を引いた。

「横になって」
そっとベッドに腰をかけさせると、枕元の引き出しから体温計を取り出して、紗良の手に渡す。
「しっかり測って。鳴るまで動かさないように」

そう言うと、航太はキッチンへ向かい、冷蔵庫を開けた。
中には、念のために冷やしておいた経口補水液があった。
彼はそれを手に取り、グラスに注ぎながら、ベッドの方を気にする。

戻ってみると、紗良が体温計を見たまま、固まっていた。
表情には驚きと、少しだけ不安の色が浮かんでいる。

「見せて」

航太が手を差し出し、体温計を受け取る。
そこには、「38.8℃」という数字が、無情にも光っていた。

「……これは、完全に来てるな」

小さく息を吐いた航太は、すぐにスマホを手に取った。
「鶴田先生に連絡する。紗良は、何も考えずに横になって。いいね?」

その声は穏やかで、けれど一分の隙もない医療者としての眼差しだった。
紗良は、大人しく頷くと、彼の用意した補水液に口をつけながら、静かにベッドに身を沈めた。
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