【番外編】SP 橘は、“甘やかし専門医”です
鶴田に連絡を済ませてから、航太はベッドサイドの椅子に腰を下ろし、静かに紗良を見守っていた。

部屋の照明はほのかに落とされ、外の街灯がカーテンの隙間から揺らぐように差し込んでいる。
ベッドの上で横たわる紗良は、何度も寝返りを打ち、目を閉じてはまた開き、浅い呼吸を繰り返していた。

「……寝れない?」
小さな声で問いかけると、紗良は瞼をうっすら持ち上げて、困ったように首を振った。

「うん……だるいんだけど、なんか……こう、不安っていうか、落ち着かないの」
熱のせいだけではない。
身体の奥に居座る不安が、心を静めてくれないのだ。

航太は優しく微笑むと、穏やかな声で言った。
「明日、一緒に行くから。鶴田先生には俺からきちんと説明するし、診察室にもずっといる。……大丈夫だよ」

その言葉に、紗良は少しだけ安心したように「うん」と頷き、そっと目を閉じた。
まつげが頬に落ちる様子を確認して、航太は立ち上がると、そっと部屋を後にした。

キッチンに戻り、残っていた洗い物を静かに片付ける。
水の音が控えめに響き、部屋に落ち着いた時間が流れた。
それから、手早くシャワーを済ませ、再び寝室へ。

ベッドに戻った航太は、紗良の寝顔をそっと見つめる。
額に当てた手のひらはまだ熱を感じるが、寝息は少し落ち着いてきていた。

「……よかった」
そうつぶやきながら、彼はそっと紗良の隣に体を滑り込ませた。
彼女の肩を軽く抱くように腕を回し、体温を伝える。
何も言わず、ただそこにいることだけで、紗良に安心を届けるために——。
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