【番外編】SP 橘は、“甘やかし専門医”です
紗良は処置室のベッドに横たわり、看護師が足元にふわりとブランケットをかけると、そのまま小さく身を縮めた。
寒さというより、緊張のせいだった。

看護師が脇のワゴンから器具を取り出し、静かに準備を進める中、紗良は薄く目を開けてそっと手元を覗き込んだ。

その視線にすぐ気づいた航太が、ため息まじりに近づき、ベッドの頭側に立つ。
そして、両手でそっと紗良の頬を包んだ。

「見なくていいよ」

その言葉に、紗良はわずかに頷くと、目を閉じて大きく深呼吸をした。
頬に触れる航太の手の温もりに、ぎゅっと閉じていた肩の力がほんの少しだけ緩んだように見えた。

「じゃあ、がんばりましょうねー。ちくっとしますよー」

看護師が明るく声をかけ、静かに針を刺す。その後も、慣れた調子で優しく声をかけ続けた。

「ご気分、悪くないですかー?」

「紗良さん、リラックスしてくださいねー」

それでも紗良の肩は硬くこわばったまま、全身に緊張が走っているのがはっきり分かる。

そんな様子を見て、航太はもう一度声をかけた。

「……深呼吸して」

その言葉に、紗良は刺された腕から意識を逸らすように、
執拗に深く息を吸い、吐いた。吸って、吐いて、吸って、吐いて――
だがその早さは、もはや深呼吸というより、過呼吸すれすれのテンポだった。

航太はその必死さに少しだけ苦笑しながら、内心で思う。

(……採血だけでこんなに手のかかる患者、珍しいな)

だがその手は、ずっと変わらず紗良の頬に添えられていた。
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