【番外編】SP 橘は、“甘やかし専門医”です
紗良は、その日、まるで小さな子供のように不安げな目をして、
東都大学病院の検査室前の長椅子にちょこんと座っていた。
両手は膝の上で固く握られ、足先は落ち着かずに小刻みに揺れている。

そんな様子を見て、隣に立つ航太は苦笑しながら腰をかがめ、
「大丈夫、落ち着いて」と優しく声をかけた。

発熱発作からちょうど2週間。
今日は腹壁脂肪生検と遺伝子パネル検査の日だ。
前回の発熱で疑われた病気の確定診断のため、鶴田医師の指示で改めてこの検査を受けることになった。

しかし、紗良の緊張は、注射の比ではなかった。
顔は真っ青で、唇もわずかに震えている。
「ふ、ふくへきしぼうせいけん……?」
噛みそうになりながらも、必死に言葉を口にする紗良の声は、半ば涙交じりだ。
「だって……前、お腹に針刺すって言ってた……」

その言葉に、航太は思わず吹き出しそうになるのをこらえた。
「そこだけはしっかり覚えてたんだな」
感心したように言って、そっと紗良の背を撫でる。

「大丈夫。俺も検査中そばにいるから、ちゃんと先生にもお願いしてある。なるべく痛くないようにしてくれるって。な?」
その言葉に紗良は小さく頷いたものの、手の震えは止まらず、緊張が解ける気配はまるでなかった。

航太は注射であんなに騒ぐんだから、そりゃこうなるかと思いながらも、
これから待ち受ける検査に、できる限り寄り添おうと、そっと紗良の手を包み込んだ。
< 79 / 126 >

この作品をシェア

pagetop