【番外編】SP 橘は、“甘やかし専門医”です
紗良は航太とともに検査室に入ると、その空気だけで一層緊張を強めた。
消毒薬のにおい、銀色に光る医療器具、そして静まり返った室内。
紗良の足取りは重く、ベッドの端に腰かけるとすぐ、視線が泳ぎ始める。
「こんにちは、一ノ瀬さん。今日は、腹壁脂肪生検を行いますね」
白衣姿の鶴田がいつも通り穏やかに説明を始めた。
「これは、お腹の皮下脂肪の一部をほんの少しだけ取って、アミロイドの沈着があるか調べる検査です。局所麻酔を使うので、基本的には強い痛みはありません。5~10分くらいで終わりますから、安心してください」
紗良は無言でこくんと頷いたが、顔色は明らかに悪い。
鶴田は準備を進めながら、淡々と手順を口にする。
「ではまず、アルコールで消毒して、局所麻酔をします。それから、専用の生検針を使って脂肪をほんの少しだけ採取します」
看護師が優しく紗良の服を上げ、腹部を露出させる。冷たい消毒液の感触に、ぴくりと身体が反応した。
鶴田がゴム手袋をはめ、器具を確認すると、紗良はついに、目を潤ませたまま声を上げた。
「やっぱり、無理.....!お腹に針刺すなんて.....こわい......つ」
瞬間、呼吸が浅くなり、胸が大きく上下し始めた。
航太がすぐさまそばに駆け寄り、
「紗良、落ち着いて。大丈夫、大丈夫だから」と声をかける。
鶴田も検査の手を止め、静かにゴム手袋を外した。
「一度、深呼吸しましょうか」
そう言って、紗良の目線の高さまでしゃがみこむ。
「大丈夫、検査はいつでもできますからね。無理に進めることはしませんよ」
航太が「申し訳ありません。いつもこうで......」
と小声で言うと、
鶴田は微笑みながら、
「いえ、この後の予約は入れてませんから、ゆっくりで大丈夫ですよ」と答えた。
その言葉に、航太は心からほっとした。
(他の新患は受けていないのに.....紗良のことを、こんなふうに丁寧に診てくれるなんて)
そう思うと、医者としてだけでなく、人としての鶴田の姿勢に感謝の気持ちが込み上げた。
紗良が徐々に呼吸を整え、涙を拭った後、再び検査が始まる。
航太が紗良の手を握りながら「今度は俺がずっと話しかけてるから、怖くない」と言えば、
鶴田も「目をつぶって、好きなものでも考えてみましょう。アップルパイとか」と笑って言った。
麻酔の注射に、紗良はびくっと身をこわばらせたが、「今のがいちばん痛いところです。あとはほとんど感じないですよ」と鶴田がすぐに声をかける。
航太も「もう終わるからな、よく頑張ってる」と頭をそっと撫でた。
数分後、生検針による採取は無事に終了。
看護師が優しくガーゼを当てて処置をしながら、
「お疲れさまでした」と声をかけたとき、
紗良の緊張もやっとほどけていった。
消毒薬のにおい、銀色に光る医療器具、そして静まり返った室内。
紗良の足取りは重く、ベッドの端に腰かけるとすぐ、視線が泳ぎ始める。
「こんにちは、一ノ瀬さん。今日は、腹壁脂肪生検を行いますね」
白衣姿の鶴田がいつも通り穏やかに説明を始めた。
「これは、お腹の皮下脂肪の一部をほんの少しだけ取って、アミロイドの沈着があるか調べる検査です。局所麻酔を使うので、基本的には強い痛みはありません。5~10分くらいで終わりますから、安心してください」
紗良は無言でこくんと頷いたが、顔色は明らかに悪い。
鶴田は準備を進めながら、淡々と手順を口にする。
「ではまず、アルコールで消毒して、局所麻酔をします。それから、専用の生検針を使って脂肪をほんの少しだけ採取します」
看護師が優しく紗良の服を上げ、腹部を露出させる。冷たい消毒液の感触に、ぴくりと身体が反応した。
鶴田がゴム手袋をはめ、器具を確認すると、紗良はついに、目を潤ませたまま声を上げた。
「やっぱり、無理.....!お腹に針刺すなんて.....こわい......つ」
瞬間、呼吸が浅くなり、胸が大きく上下し始めた。
航太がすぐさまそばに駆け寄り、
「紗良、落ち着いて。大丈夫、大丈夫だから」と声をかける。
鶴田も検査の手を止め、静かにゴム手袋を外した。
「一度、深呼吸しましょうか」
そう言って、紗良の目線の高さまでしゃがみこむ。
「大丈夫、検査はいつでもできますからね。無理に進めることはしませんよ」
航太が「申し訳ありません。いつもこうで......」
と小声で言うと、
鶴田は微笑みながら、
「いえ、この後の予約は入れてませんから、ゆっくりで大丈夫ですよ」と答えた。
その言葉に、航太は心からほっとした。
(他の新患は受けていないのに.....紗良のことを、こんなふうに丁寧に診てくれるなんて)
そう思うと、医者としてだけでなく、人としての鶴田の姿勢に感謝の気持ちが込み上げた。
紗良が徐々に呼吸を整え、涙を拭った後、再び検査が始まる。
航太が紗良の手を握りながら「今度は俺がずっと話しかけてるから、怖くない」と言えば、
鶴田も「目をつぶって、好きなものでも考えてみましょう。アップルパイとか」と笑って言った。
麻酔の注射に、紗良はびくっと身をこわばらせたが、「今のがいちばん痛いところです。あとはほとんど感じないですよ」と鶴田がすぐに声をかける。
航太も「もう終わるからな、よく頑張ってる」と頭をそっと撫でた。
数分後、生検針による採取は無事に終了。
看護師が優しくガーゼを当てて処置をしながら、
「お疲れさまでした」と声をかけたとき、
紗良の緊張もやっとほどけていった。