【番外編】SP 橘は、“甘やかし専門医”です
腹壁脂肪生検が終わっても、紗良の緊張はまだ完全には解けていなかった。
検査台からゆっくり起き上がり、深く息を吐くと、鶴田が優しく声をかける。

「次は遺伝子パネル検査ですね。こちらは採血だけですので、今よりはずっと楽ですよ」
そう説明しながら、鶴田は処置台を整え、看護師に採血の準備を指示した。

それを聞いた紗良は、ほんの少しだけ眉を緩めて、
「採血なら……うん、大丈夫……かも」
と小さく呟く。

航太はすかさず「それ、さっきも聞いた気がするな」とからかい、紗良は「もうやだ」と膨れながらも、どこか安心した表情を見せる。

看護師が紗良の腕にゴムバンドを巻き、静かに血管を探す。
鶴田がその手順を見守りながら、航太に説明する。
「今回は希少な自己炎症性疾患の可能性も視野に入れて、パネルを広めに出しておきます。血液からDNAを取り出して、原因となり得る遺伝子の変異を調べます。結果が出るまで、少し時間はかかりますけどね」

「ありがとうございます」
航太は真剣に頷いた。

針が静かに紗良の腕に挿入され、数本分の採血が進められていく。紗良は先ほどの検査とは違って、視線をそらしながらも静かに耐えていた。

「終わりましたよ」
看護師の声に、紗良はほっとしたように肩を落とす。

「これで、今日の検査はすべて終了です。お疲れさまでした」
鶴田のその声に、紗良は小さくうなずき、ベッドの端に座ったまま深呼吸した。

航太がその肩を軽く叩いて、
「よく頑張ったな。今日はもう何もしないでいいから、帰ってゆっくりしよう」
と言うと、紗良はようやく笑顔を見せて、
「……うん、そうする」
と答えた。

その笑顔に、航太も安堵しながら、鶴田に改めて礼を述べた。
検査の痛みよりも、緊張と不安に耐えた一日だった。けれどその先には、きっと原因と答えがある——航太も紗良も、そう信じていた。
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