【番外編】SP 橘は、“甘やかし専門医”です
夕食のテーブルには、航太が買ってきたサラダと、紗良がなんとか気力で用意したパスタ。
その脇で、鶴田から届いた検査結果の封筒がひときわ存在感を放っていた。

航太はそれを手に取り、封を開けながら言う。
「まずね、腹壁脂肪生検。これは陰性だった。つまり、アミロイドーシスの心配は今のところないってこと。良かったよ」

「うん……それは、良かった……」
紗良はほっとしながら、次の話題を警戒するようにちらりと航太の顔を見る。

「それから、遺伝子パネル検査の結果だけど、“家族性地中海熱”に関連するMEFV遺伝子の変異が見つかったって書いてある」

「……めー、なんとか?」

「読み方はメフブ、でも別に覚えなくていいよ。要は、熱が何回も繰り返される理由が、体の免疫をコントロールする遺伝子の一部に“設計ミス”があるせいなんだ」

「設計ミスって……私、そんな不良品みたいな体だったの……?」

「不良品じゃないよ。たまたまそういう体質ってだけ。日本人でも見つかるようになってきたし、変異がある=病気ってわけでもないから、落ち込まなくていい」

「……ふうん」
紗良は納得したようなしないような顔で、フォークをくるくる回した。

航太は書類の別のページをめくりながら続ける。
「今後は“コルヒチン”って薬を飲んで、熱が出ないように予防していく方針になる。これを毎日飲んでれば、発作の回数も減らせるし、長期的に腎臓とかに影響を出さないようにできる。大事なのは、サボらず続けること」

「副作用は?」

「人によってはお腹がゆるくなるかも。でも量を調整できるから、飲みながら様子を見ればいい」
航太はやさしい声でそう言うと、ちらりと紗良の表情をうかがう。

「そっか……熱の原因が分かったのはちょっと安心したかも。でも、飲み続けるって面倒だなあ……」
「まあね。でも、熱出して苦しむよりはマシでしょ?」

「それは……そうだけど……」

航太はにこりと笑いながら、紗良の皿にサラダを取り分けてやる。
「近いうちに病院で処方してもらうってさ。鶴田先生が書いてくれてる。」

紗良は頷きながら、まだ少し不安げにパスタを口に運んだ。
でも横に航太がいるだけで、少しだけ気が楽になるのだった。
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