【番外編】SP 橘は、“甘やかし専門医”です
夕食を終えた後、紗良はソファに座って、まるで猫のように航太の腕にぴったりと寄り添っていた。
テレビはついていたが、二人の間に流れる静かな空気に、特に集中する気にもなれない。

「……なんか、ちょっと汗臭いね」
紗良がくすっと笑って、航太のシャツの袖をつまんだ。

「新人警護官の訓練、今日が最終日だったから。ちょっと一緒に動いて指導してたんだ」
「指導って大変?」
「いや、現場に出るよりよっぽど楽」
航太はあっさりと笑い飛ばした。 

紗良は少し首を傾げて、じっと航太の横顔を見つめる。
「警護してる真剣な航太くん……久しぶりに見たいな」
それを聞いた航太は苦笑して、ソファに深く寄りかかった。

「言うよなあ。前は“警護なんていらない、ついてこないで”って散々怒ってただろ」
「……あの時はごめんね。ほんと、何にも知らなかった」
紗良の声は小さく、それでもまっすぐだった。

航太はちらりと紗良を見て、ふっと目を細めると、
「ほんとさ……手のかかる“伝説の警護対象者”だったよ」
そう言いながら、そっと紗良の手の甲を取り、ちゅっと軽くキスを落とした。

紗良は驚いたように目を瞬かせ、けれどすぐに嬉しそうに微笑んで、
「伝説、かあ……なんかかっこいい響き」
「いや、実際は全然かっこよくなかったけどな」

二人の笑い声が重なり合い、柔らかく夜が更けていった。
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