【番外編】SP 橘は、“甘やかし専門医”です
都内某所、閑静な住宅街の一角にある公邸。
今日は外部との打ち合わせが予定されており、要人警護の一環として、新人警護官のOJTが実施されることになっていた。

「現地集合の時間は10分前厳守。周囲の歩行者や不審者への目線を切らすな。報告は簡潔に、判断に迷ったら先輩の指示を仰げ。以上」
橘の一言で、現場の空気がぴんと引き締まった。

松浦は、新人たちに配布されたイヤーピースの装着を確認しながら、それぞれの配置を割り振っていく。

「三浦は正門前。通用口とインカムで連携とって。不審な動きがあれば即報告」
「了解しました!」

三浦翔太は心の中で深く息を吸う。スーツの裾を整え、所定の立ち位置へとつくと、自然と背筋が伸びる。

──“これが、現場か。”

時間になると、車列が敷地に入ってくる。
黒塗りのセダンから要人と数名の関係者が降り立ち、玄関へ向かって歩き出す。

その間、橘は正門から玄関までの導線を見渡すように歩き、無線で指示を飛ばす。

「後方、車両監視つけ直せ。通行人の動き、やや不規則だ」
「了解」

松浦は建物側で受け入れ態勢を確認し、新人たちがスムーズに対応しているかを見ていた。
小さくうなずいたあと、橘にそっと声をかける。

「意外と、三浦くん落ち着いてますね」
「ああ、思ったより緊張を顔に出さない。悪くない」

短いやり取りのあとも、現場の流れは滞ることなく進んだ。

業務が一段落した頃、橘は三浦のもとに歩み寄り、静かに声をかけた。

「お疲れ。立ち位置、距離感、無線のレスポンス──問題なかった。けど、油断は一番の敵だ。実戦は一瞬で空気が変わる」

「はい……ありがとうございます」

三浦の頬に、ようやく少しだけ緊張の色が浮かんだ。
だがそれでも、目は真っ直ぐ前を向いていた。
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