【番外編】SP 橘は、“甘やかし専門医”です
夕方、公邸での任務が終わると、隊員たちは控室に集合した。スーツのジャケットを脱ぎかけたまま、水分を取りつつ、全員が少しだけほっとした表情を見せていた。

「じゃあ、軽く振り返るぞ」

橘が室内を見渡すと、新人たちは姿勢を正し、耳を傾けた。松浦も補助の資料を手に、後ろに控える。

「まずは全体的に──よくやってた。初回のOJTにしては動きも安定してたし、指示に対する反応も早かった」

部屋の空気がわずかに緩む。何人かの顔に、安堵の色が浮かぶ。

「ただ、少し気になった点もある」

橘の声が柔らかく引き締まる。

「佐伯、君は立ち位置。あと30センチ後ろ。正門の死角に入りかけてた。見えてるつもりでも、見えてないことがある。視野を意識しろ」

「……はい!」

「中山、おまえの無線レスポンスは確かに早かった。ただ、早ければいいわけじゃない。確認せずに返すと、判断ミスにつながる」

「了解です。すみません」

「それと三浦。……よく冷静に動いてたな」

三浦は一瞬、きょとんとする。橘が個人を名指しで褒めるのは珍しいのだ。

「目線の配り方も、位置取りも悪くなかった。ただ──不審者の想定が抜けてた。俺が少し歩き方を変えた時、おまえ、一瞬目をそらしたよな?」

三浦ははっとして、すぐに頭を下げた。

「……はい、気を抜きました」

「でも、それに気づけてるなら次に活かせる。ミスを恐れるな。恐れるべきは“気づけないこと”だからな」

言葉の端に、橘らしい実感のこもった静かな説得力があった。

松浦も少し笑いながら口を添える。

「ね、橘さんにしては甘口だったでしょ。……でも、みんな本当によくやれてたよ。ちゃんと形になってる。自信持って」

「はい!」

全員の返事が一つにそろい、短い反省会は終わった。
新しい現場への第一歩に、確かな手応えと、小さな達成感がにじんでいた。
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