裏切りパイロットは秘めた熱情愛をママと息子に解き放つ【極上の悪い男シリーズ】
『刑事告訴?』
 遼一の背中を冷たい汗が流れ落ちた。
 父は、青ざめたような表情だった。机の上で握りしめている拳が震えている。
 世間からどう思われようが、和葉とは結婚する。その気持ちに変わりはないけれど、頭に浮かんだのは、その状況に彼女が耐えられるか?ということだった。
 NANAの副社長が逮捕されれば、当然全国ニュースになるだろう。裁判で無罪を証明するとはいっても長くかかる。推定無罪の原則は、日本ではあまり馴染みがなく、世間的には逮捕された時点で犯罪者だ。
 大切な父親が病に倒れただけでもつらいのに、世間から後ろ指刺されて……。
 様々なことが頭に浮かび、奥歯を噛み締める遼一に、父が口を開いた。
『お前が俺の条件をすべて呑むなら、刑事告発は保留にしてやる』
『条件……?』
 隣で福原が苦々しい表情で『社長、それは』と言いかけるけれど、父に『黙れ』と一喝されて口を閉じた。
『遼一、条件を呑め。俺の言うことを聞け』
 我が父ながら卑怯な真似をとは思ったが、口には出せなかった。
 和葉を傷つけることはできない。
 彼女のことはなにからも守らなければならない。
『婚約破棄だ。この瞬間から一切連絡をとることは許さん。全部弁護士に任せてお前は会うな。それから、パイロットをやめて経営の道へ進め、寺坂の代わりにお前が取締役に昇格しろ』
 経営者の道かパイロットかという話は、長年親子の間の溝になっていた。
 パイロットは遼一にとって生涯をかける価値のある仕事だが和葉のためなら仕方がない。
 だが、前半の条件は……。
『パイロットは辞めます。でも和葉のことは……』
『譲歩はしない』
 自分の父親を、遼一は心底軽蔑した。経営者としては有能なのかもしれないが、そんなことは知ったことか。
 だが、条件を呑まなければ和葉が言われのない苦労を背負い後ろ指を指される人生を歩むことになる。
 母を亡くして、父親は仕事ばかりという中で、心を砕いてくれる身内はいなかった。家族の愛に飢えていた自分を温かく迎えてくれたのが、寺坂家だったのだ。なんとしても守らねばならない。
 他に道はないように思えた。
『呑むなら、携帯を出せ。個人的な連絡も禁止だ』
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