裏切りパイロットは秘めた熱情愛をママと息子に解き放つ【極上の悪い男シリーズ】
 早く和葉と連絡を取り変わらない想いを伝え安心させたい。
 その機会を伺っていた遼一が、弁護士から知らされたのは、和葉に別の恋人ができハワイへ行ったという話だった……。
 和葉の心がもう自分にないという事実に、遼一は打ちのめされ絶望した。
 あの柔らかな頬に触れることも、『遼一』と恥ずかしそうに呼ぶ甘やかな声音を耳にすることももうないのだ。身が引き裂されるような痛みを感じ、心が血の涙を流した。
 だがそれでも。
 和樹の幸せを願う想いだけは揺らがなかった。たとえ自分のそばでなくても、全人類が滅びても、彼女は幸せでなくてはならない。
 ならば自分がやるべきことはただひとつ、和葉の父の横領疑惑を晴らすことだった。
 彼女の人生を、幸せを、万が一にでも脅かすものは、取り除かなければならない。
 恩人に疑惑がかかったままなのも許せなかった。
 人はそれを自己犠牲と呼ぶのかもしれない。だが遼一からみれば贖罪だ。
 父の命に背きパイロットの道を志した。
 経営に関心を向けなかったから、彼らの窮地を救えなかった。自分がはじめから経営に関わっていれば、疑惑などすぐに晴らせたかもしれないのに。
 和葉の寝顔を見つめながら、これまでのことを思い出していた遼一は、ふうっと短く息を吐く。
 寝室を出て、タブレットを開くとメールが一件入っている。
 個人的に依頼している弁護士からだった。
『例の人物は、予定通り明日早朝の便で福岡空港に到着するようです』
 その知らせに、遼一はふうとため息をついた。
 ——ようやく戦いの終わりが見えてきた。
 件の人物は、寺坂の横領疑惑を告発した石原という人物だ。いつの間にかNANAを退職し日本を離れドバイにいた。遼一は密かにコンタクトを取り、あの時の告発の真相を聞き出している。
 とそこで、携帯の着信が鳴る。
 時刻は午後十一時、コールするには非常識な時間だ。が、当然のようにかけてくるこの人物からの着信は無視すると厄介だ。
 遼一は自分の側の寝室へ行きドアを閉めて画面をタップした。
「はい」
『おつかれさまです。福原です』
 歩美だ。
「なにか」
『いえ、用があったわけではありませんが、久しぶりのフライトどうだったか聞きたくて』
 ただの秘書にしてはフランクな口調なのは、彼女が大学時代の同級生だからだ。学部は違うが共通の友人を介して交流があった。
「特に問題ない」
 裏切られたと思うのは大袈裟だろうか。
 学生時代に告白を受け、断ったという過去はあるものの、その後は普通の友人関係だったと認識している。その彼女が後に自分と和葉の障害の一端を担ぐことになるとは思いもしなかった。
 ただ自分の件はともかく、彼女は和葉に対しては裏切っていると言ってもいいだろう。
 和葉は、まさか尊敬する先輩が、積極的に自分と婚約者の連絡手段を断つ手伝いをしていたなんて思いもしていない。
< 109 / 146 >

この作品をシェア

pagetop