裏切りパイロットは秘めた熱情愛をママと息子に解き放つ【極上の悪い男シリーズ】
午後九時を過ぎた自宅マンションの和室にて。すーすーと可愛い寝息が聞こえてきて、和葉は、樹が眠りについたことを確認する。
本当は今すぐにでもリビングへ行き明日の準備をしなくてはならないが、あまりにも可愛くてしばらくじっと見てしまう。
けれどその寝顔がいつかの日の遼一と重なって胸がちくりと痛んだ。
福岡で彼の腕に抱かれたのはたった三日前のことなのに随分遠く感じられる。彼の寝顔を見ることはおそらく一生ないのだと思うと寂しくてたまらなかった。
けれどこれでよかったのだと自分自身に言い聞かせた。
樹のこの寝顔をなんの後ろめたい気持ちもなく見続けるためには、正しい選択だったのだ。
ふと携帯を見ると、メッセージが二件入っている。和葉はそっとリビングへ出た。
一件目は遼一からだった。
《ごめん、来週は時間が取れなさそうだ。また連絡する》
そのメッセージに肩透かしを食らったような気持ちになり、でも少しホッとする。次に会う時が彼との別れの時なのだ。
こうしていると、あれは夢だったんじゃないかと思うくらい幸せな日だった。もうこれ以上望むものはないと本心から言えるけれど、その時が来るのはやっぱり少し怖かった。
《了解です。また日にちがわかったら連絡ください》
メッセージに返信をして、もう一つのメッセージを開く。歩美からだった。
もっともこちらは、今日の夕方から諸所の家事を挟みながら続いているやり取りだ。歩美の方から和葉と会いたいと連絡が入ったのだ。
休みの日に、子供を連れてランチでもどうか?という誘いだったので和葉は、それなら……と次の休みの日を送った。それに対する答えが返ってきている。
《ごめんその日は、用事がある。私も休みなんだけど、実はお見合いすることになってさ》
予定が合わないのはともかくとして、和葉はその理由を意外だと思った。
バリバリ仕事をこなす彼女だから、結婚は、見合いではなく自分で決めた相手としそうだと思ったからだ。でも考えてみれば、彼女の大企業の役員の娘だ。そういうこともあるか、と考えていると、歩美から着信が入った。
《ごめん和葉、遅くに》
「全然大丈夫ですよ。直接話した方が早いですもんね。日にちの件了解です。ただ次のシフトがちょっと交代になるかもしれないので、決まったら連絡する形でもいいですか?」
メッセージのやり取りをまとめてそう言うと、歩美が言いにくそうに続けた。
《会いたかったのはね、私、ちょっと和葉に話があったからなの。本当は会って話したかったんだけど、ちょっとそれまでに会えそうにないから、電話で》
珍しく言いにくそうにする。
「なんですか?」
《さっき入れたお見合いね、あれ、お相手が橘さんなの》
「……え?」
《もう関係ないってことは知ってるんだけど、えーっと私は和葉とも親しいじゃない? だからちゃんと言っておきたいと思って。まあお見合いって言っても、今更だし、一応親も交えて意思確認するって感じで、形式的な話なんだけど。結婚っていっても親の関係とか考えたら、お互い都合がいいよね?って感じだから、全然艶っぽいもんじゃないんだけど。橘さんってさ……》
……そこから先の話は、あまり頭に入ってこなかった。ただ機械的に相槌を打つ。
「おめでとうございます。私のことはまったく気にしないでください」
すべての力を使ってなるべく明るくそう言って電話を切った。
そのまましばらく茫然とする。
本当は今すぐにでもリビングへ行き明日の準備をしなくてはならないが、あまりにも可愛くてしばらくじっと見てしまう。
けれどその寝顔がいつかの日の遼一と重なって胸がちくりと痛んだ。
福岡で彼の腕に抱かれたのはたった三日前のことなのに随分遠く感じられる。彼の寝顔を見ることはおそらく一生ないのだと思うと寂しくてたまらなかった。
けれどこれでよかったのだと自分自身に言い聞かせた。
樹のこの寝顔をなんの後ろめたい気持ちもなく見続けるためには、正しい選択だったのだ。
ふと携帯を見ると、メッセージが二件入っている。和葉はそっとリビングへ出た。
一件目は遼一からだった。
《ごめん、来週は時間が取れなさそうだ。また連絡する》
そのメッセージに肩透かしを食らったような気持ちになり、でも少しホッとする。次に会う時が彼との別れの時なのだ。
こうしていると、あれは夢だったんじゃないかと思うくらい幸せな日だった。もうこれ以上望むものはないと本心から言えるけれど、その時が来るのはやっぱり少し怖かった。
《了解です。また日にちがわかったら連絡ください》
メッセージに返信をして、もう一つのメッセージを開く。歩美からだった。
もっともこちらは、今日の夕方から諸所の家事を挟みながら続いているやり取りだ。歩美の方から和葉と会いたいと連絡が入ったのだ。
休みの日に、子供を連れてランチでもどうか?という誘いだったので和葉は、それなら……と次の休みの日を送った。それに対する答えが返ってきている。
《ごめんその日は、用事がある。私も休みなんだけど、実はお見合いすることになってさ》
予定が合わないのはともかくとして、和葉はその理由を意外だと思った。
バリバリ仕事をこなす彼女だから、結婚は、見合いではなく自分で決めた相手としそうだと思ったからだ。でも考えてみれば、彼女の大企業の役員の娘だ。そういうこともあるか、と考えていると、歩美から着信が入った。
《ごめん和葉、遅くに》
「全然大丈夫ですよ。直接話した方が早いですもんね。日にちの件了解です。ただ次のシフトがちょっと交代になるかもしれないので、決まったら連絡する形でもいいですか?」
メッセージのやり取りをまとめてそう言うと、歩美が言いにくそうに続けた。
《会いたかったのはね、私、ちょっと和葉に話があったからなの。本当は会って話したかったんだけど、ちょっとそれまでに会えそうにないから、電話で》
珍しく言いにくそうにする。
「なんですか?」
《さっき入れたお見合いね、あれ、お相手が橘さんなの》
「……え?」
《もう関係ないってことは知ってるんだけど、えーっと私は和葉とも親しいじゃない? だからちゃんと言っておきたいと思って。まあお見合いって言っても、今更だし、一応親も交えて意思確認するって感じで、形式的な話なんだけど。結婚っていっても親の関係とか考えたら、お互い都合がいいよね?って感じだから、全然艶っぽいもんじゃないんだけど。橘さんってさ……》
……そこから先の話は、あまり頭に入ってこなかった。ただ機械的に相槌を打つ。
「おめでとうございます。私のことはまったく気にしないでください」
すべての力を使ってなるべく明るくそう言って電話を切った。
そのまましばらく茫然とする。