裏切りパイロットは秘めた熱情愛をママと息子に解き放つ【極上の悪い男シリーズ】
 直接会うようになってからは通うのはやめていたのに、先日はわざわざ一緒に行こうと誘われた。断ると不審がられると思い付き合ったのだが、おそらく自分たちの反応を観察していたのだろう。
 牽制しているか、疑っているか、いずれにしても自分に執着してこのような行動をとっているわけではないように思えた。
 どちらかというと和葉への……。
「橘さん?」
 答えない遼一に歩美が首を傾げる。
 遼一はため息をついた。
「今日はいい。それより、内密の電話をするから外してくれないか」
「わかりました。でもあのひとつだけ……明日の場所が決まりましたのであとでメッセージを入れておきます」
 そう言って彼女は、部屋を出ていった。
 おそらく歩美が、和葉を傷つけるためにわざと言ったのだろうと想像できた。
 そしてそれに和葉は動揺し、自分たちの間に弁護士を挟むと決めた。さっきの様子だと、歩美に申し訳ないと相当気に病んでいるのだろう。
 ——時期を見誤ったのか。
 目を閉じて、遼一は考えた。
 婚約破棄に関する真相を和葉に話すのか、話すとするならいつにするかという問題は、彼女が帰国してからずっと遼一が考えていたことだった。
 当然ながら、ハワイで新しい生活をはじめていた和葉に話すという選択肢はなかった。
 幸せな家庭を築いている彼女にとって自分との婚約破棄は過去のこと。雑音でしかないし、その結果彼女が遼一に申し訳なさを感じ、万が一にでも悲しむ事態になってはならないからだ。
 それは帰国したと知っても同じことだった。コーヒーショップへ通っていたのは、ただ慣れない生活と仕事に奔走する彼女が、元気か幸せかを確認したかっただけ。すでに家庭を築いているならば、自分は彼女にとって最悪の元婚約者である方がいいと、わざと冷たく接して。
 だがすぐに新恋人の話は嘘で樹が自分の子だと知り動揺した。
 新しい恋人がいないなら、和葉はひとりで自分との別れを乗り越えたということになる。
 彼女は、どんな思いでこの二年を過ごしたのだろう。
 つらかっただろうか。
 苦しかっただろうか。
 幸せに過ごしていると信じていたからこそ、自分はこの孤独に耐えられていたのにと、胸が痛み血を流した。その傷は、自分だけが負うものより、もっと深く心をえぐる。
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