裏切りパイロットは秘めた熱情愛をママと息子に解き放つ【極上の悪い男シリーズ】
 サイドテーブルにトレーを置いて、母が父をチラリと見る。父が神妙な表情で頷くと、ため息をついて話しはじめた。
「どちらにせよ、辞めるしかなかったけど、お父さんにそういう疑いがかかっていたのは本当。これは私もお父さんの記憶がはっきりと戻ってから知ったけど、まったくの濡れ衣よ」
 それは和葉も信じられた。両親は金銭的に困ってはいなかったし、ゴルフもギャンブルもしない父に多額の金が必要だったとは思えない。なにより真面目を絵に描いたような仕事人間だった父が会社を裏切るはずがない。
「じゃあなんでこんなこと」
「はめられたんじゃないかって思ってる。お父さん、橘さんから随分信頼されていたでしょ。……大きい会社はいろいろあるのよ。それまでにも似たようなことはあったし」
 会社の中の権力争いなど、和葉には想像もつかない話だ。
「でもこんな大事な話、どうして教えてくれなかったの?」
「その書類が届いたのが、あなたがハワイに行った後だったのよ。頑張ってるって、百合子さんから聞いてたし、もうこれ以上つらい思いをさせたくなくて」
「でも……でも、お母さんだって不安だったでしょう? それなのに……私は自分のことで精一杯で」
 その頃はまだ、父の記憶もはっきりせず意思疎通もおぼつかない状況だったはず。母がどれだけ不安だっただろうと思うと、自分だけ新しい道に進んでいたことを申し訳なく思う。
「いいのよ、そんな。それにその頃……」
 そこで母は言葉を切ってしばらくなにか考えている。やがて思い切ったように口を開いた。
「その頃にね、遼一くんから連絡があったの」
「……遼一から……?」
「そう、お父さんの疑惑は濡れ衣だと自分は信じてる。刑事告訴はされないから、安心してほしいって」
 その意外な話に和葉は息を呑んだ。
 あの頃、母と遼一の間でそんなやり取りがあったなんて。
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