裏切りパイロットは秘めた熱情愛をママと息子に解き放つ【極上の悪い男シリーズ】
 それについても、どうしてなにも言ってくれなかったのだと思ったけれど、すぐに当然だったと思い直した。
 あの頃の和葉はなんとか自分を立て直そうとギリギリの精神状態だったのだ。
 婚約破棄の事実を変えられないのに遼一の話をしてつらい思いをさせたくないと母が思って当然だ。
「だから、とりあえずは安心できたっていうか……ほら、遼一くんって言ったことは必ず守る子だったじゃない?」
「それは……そうだったね」
 遼一の話に少し動揺するのを隠して和葉は頷いた。
「結婚がダメになったこと、申し訳ないと思ってくれてたのかな、とも思ったし……」
 あの弁護士事務所での出来事は母には話していないから、母は彼の冷酷な一面を知らない。だから母にとっては息子のように可愛がっていた遼一のままなのだ。
『言ったことは必ず守る』
 和葉も婚約破棄までは、彼をそういう人だと思い誰よりも信頼していた……。
 その時ふと、和葉の頭にある記憶が蘇った。
 彼が機長試験に合格し、プロポーズを受けた時のことだ。和葉の答えはもちろんイエスで、それに彼は安堵しつつ誓ったのだ。
『俺は和葉を必ず幸せにする。そのためならなんでもするよ。絶対に和葉を裏切ったり嘘をついたりしないから』
 思えばあれが、有言実行を貫いていた彼が守らなかったはじめての約束だった。後に彼は和葉を裏切り、和葉を幸せにはしてくれなかった。
「あれから二年経つけど、お父さん逮捕されなくて本当によかった。もしされていたら、きっと大変なことになったもの。会社が大きいからニュースにもなっていただろうし。ここにも住めなくなってたんじゃないかしら」
 母がため息をついた。
 それはそうだろう。
 父が逮捕されていたら、きっと寺坂家の生活はめちゃくちゃになっていた。場合によっては母もハワイへ逃げなきゃいけなかったかもしれない。
 と、そこでなにかが引っかかり和葉の胸がコツンと鳴った。
 でもなぜ父は刑事告訴されなかったのだろう?
 どうして遼一は、告訴されないと母に断言できたのだろう?
 今でこそ彼は取締役だけれど、あの頃は一パイロットに過ぎなかった。経営方針に意見する権限はなかったはずなのに。
「お父さん、疑惑はその……濡れ衣なんだよね」
< 123 / 146 >

この作品をシェア

pagetop