裏切りパイロットは秘めた熱情愛をママと息子に解き放つ【極上の悪い男シリーズ】
 恐る恐る確認すると、父が眉を寄せて頷いた。そして母の肩をトントンと叩き身振りと短い発音でなにかを伝えている。
「え? 机に? 封筒ですか? 私にわかるかな……」
 言語に障害が残っているものの母には父の言いたいことは大体わかるようで、よいしょと立ち上がりリビングを出ていく。どうやら父の書斎へ行ったようだ。しばらくすると茶色い封筒を持って戻ってきた。
「引き出しの中の封筒ってこれしかなかったですけど」
 すると父は何度も頷き和葉に渡せという仕草をした。
 受け取り、中の書類を出して、その中身のタイトルに和葉は思わず息を呑む。
《使途不明金についての報告書》
 数枚の文書の内容は和葉には難しくすべては理解できないが、約一億の使途不明金が発生していることについての報告に合わせてその金を最後に動かした人物の名前が書かれていた。確たる証拠も添付されている。その人物は。
「……福原常務?」
 呟くと父が今まで見たことがないほど厳しい表情になっていた。この文書に書かれてあることが本当なら、横領は父ではなく福原が行ったということになる。
 父はこの報告をする前に、倒れてしまった。そしてその間に業務上横領の濡れ衣を着せられて解任された。
 和葉の胸が早鐘を打つように鳴りだした。
 二年半前の父の急病からはじまった一連の出来事には、いくつかの和葉の知らない事実があった。それらを当時自分が見たものと重ね合わせると、信じていた事実が変わってくるように感じたからだ。
 当時の豹変した遼一を見て、和葉は彼が冷たい人なのだと思った。けれど再会してからの彼は、昔を思わせる優しいところはそのままで、和葉を気遣い、樹を愛しんでくれる。
 ぐるぐると考える和葉の思考は、またプロポーズの時へ戻っていく。そして唐突にあの言葉の続きを思い出した。
 絶対に和葉を裏切らないと誓った彼に、あの時、和葉はこう返した。
『絶対に? 本当に本当に嘘もつかないし裏切らない?』
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