裏切りパイロットは秘めた熱情愛をママと息子に解き放つ【極上の悪い男シリーズ】
 通りかかったというよりはもともと和葉目当てで来たようで、まっすぐにカウンターまでやってきた。
「こんにちは」
「歩美さん……」
 久しぶりのその姿に、和葉はなんと言えばいいかわからなかった。
 あの会談から二週間後、株式会社NANAは副社長の福原を業務上横領の罪で告発した。そして臨時株主総会を開き取締役を解任した。
 それは全国で報道され、騒ぎの中歩美は退職した。
 和葉は連絡できずにいた。心配しているという気持ちは彼女にとってはいらないもの、同情などされたくないと思うのが当然だ。
 だから、彼女の顔を見るのは約三カ月ぶりである。
 スーツケースを引いて、ラフな服装の彼女は、あの日の鬱屈とした表情ではなくなって、どこか吹っ切れたような表情だ。
「久しぶり……というほどでもないか。だけど私はそんな気分。空港へもまったく来てなかったし」
「どこかへ行かれるんですか」
 スーツケースに視線を送り問いかけた。
「ブリュッセルよ。ベルギーの航空会社からオファーを受けることにしたの」
「ベルギーの? すごい! さすがです」
 思わず和葉は声をあげる。
 失業しても、こうしてすぐに次のステージに進めるのは彼女の実力が本物だからだ。さすがだというほかない。
 歩美が呆れたような表情になった。
「あなたって本当に……。人が良すぎるでしょ。私があなたになにをしたか、忘れたの?」
「それは……そうですけど」
 もちろんそれはショックだった。
 歩美が真面目な表情になり声を落とした。
「和葉、ごめんね」
「歩美さん」
「考えたら、私、自分のコンプレックスをあなたにぶつけてただけだった。馬鹿だなって思う。……謝って済む問題じゃないけど」
 まっすぐに憂いのない視線で自分を見る彼女の姿が、じわりと滲む。
 馬鹿だ、とは思わない。父に起こったこと自体は彼女のせいではなく、彼女はただ便乗しただけだ。
 それにやはりそれでも彼女にしてもらったことに変わりはない。絶望から立ち上がる際に助けになったのも確かなのだ。
 そして父親のことがあってもなお、こうしてすぐに、次のステージに進む姿はやはり和葉が憧れた彼女のままだった。
「私、応援しています」
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