裏切りパイロットは秘めた熱情愛をママと息子に解き放つ【極上の悪い男シリーズ】
 今自分の状況を彼が気にするとは思えないが、秘書なら彼女の方は気になるだろう。
 自身が担当してる役員のかつての婚約者が、再び近くで働きはじめた。しかも子供がいるとなればどういう経緯か確認しておきたいと思うのは当然だ。
 案の定彼女は言いにくそうに口を開いた。
「根掘り葉掘り聞いてごめんね。私、今橘さんの秘書をしてて、和葉がここで働きはじめたこととか、お子さんのこととか一応経緯を確認しておかなきゃいけない立場なの」
「麻衣子から聞いてます。お手数かけちゃってすみません。私がここで働きはじめたら、ちょっと微妙ですよね。一号店の出店はオーナー決めたので仕方がないですけど」
「ううん、それはいいの。私はこうやって顔を見られるのが嬉しいし。橘さんからも『放っておけ』って言われたけど、そういうわけにはいかなかったんだ」
 困ったような歩美の言葉に、胸が一瞬きゅっとなる。昼間、コーヒーショップへ来た際、一切こちらを見なかった遼一の冷たい横顔が頭に浮かんだ。
 これで言いにくいことは終わりとばかりに、歩美がガラスケースの中を覗いて笑顔になった。
「この中のものを自由にトッピングできるの? 楽しそう。あ、ロースビーフもある! おかず系も充実してるのね」
「はい。なので、時間帯によって食事にもおやつにもできるんです」
「いいわね。あー……でも、今日はこれから飲み会なのよね。パンケーキはまた今度にするね」
 残念そうにそう言いながら、歩美は隣のコーヒーショップに視線を送り「あれ?」と呟いた。
「このロゴ。橘さんが時々買ってくるコーヒーだ」
 和葉の胸がドキッとする。来てるの?というように目で問いかけられて一瞬迷う。が、すぐに首を傾げてみせた。
 歩美は少し考えるような素振りを見せるがそれ以上はなにも言わなかった。
「じゃあ、和葉、また飲もうね」
 軽く手を上げて人混みの中に去っていった。
「はあーきれな人でしたね」
 隣で話を聞いていた、仁美がため息をついた。
「できる女って感じ」
「前の職場の先輩なの。私の憧れだったんだ。今は秘書室にいるんだって」
「ほえー別世界の話みたいですね」
 同じように役員を父親に持つ立場でも彼女と自分は全然違うと改めて思う。仕事でキチンと成果を出して認められて、精神的にも自立している。そして家柄も釣り合う。
 遼一が結婚相手に選ぶとしたら彼女のような女性なのかもしれない。歩美が消えていった雑踏を見つめて、和葉はぼんやりとそんなことを考えた。

< 31 / 146 >

この作品をシェア

pagetop