裏切りパイロットは秘めた熱情愛をママと息子に解き放つ【極上の悪い男シリーズ】
 遼一がため息をついて、和葉の腕を支えた。自分が思っているよりも過労は深刻のようだ。
「……迎えがないなら、車を出す」
「でも……」
「行くぞ」
 有無を言わせぬようにそう言って、彼は和葉の二の腕を掴んだまま和葉を支えるように腕に抱えた。
 突然の急接近に、息を呑み混乱しているうちに、彼に促されるままカウンターの外へ出る。人気のないフードコートを横切り、通路に出たところで、ようやく声が出た。
「あの、本当に大丈夫です。そんな迷惑をかけるわけには」
 背の高い彼を見上げて小さな声で訴える。
 すぐに抑揚のない返事が返ってくる。
「どこかで倒れられたら寝覚めが悪い。そっちの方が迷惑だ」
 こちらをチラリとも見ない横顔と冷たい言葉に、苛立っているのが空気を通して伝わってくる。
『寝覚めが悪い』『迷惑だ』
 完全に自分都合の動機に、和葉は反発を覚えた。 
「そうなったとしても、あなたに苦情を言ったりしません。離してください。こちらこそ迷惑です」
 少し強く言い返した和葉に、遼一が足を止めて、和葉を見た。
「君は朝から勤務していただろう? 休憩はとったのか? ずっと店にいたなら労働基準法違反だ。場合によっては空港関係者に確認してもいいが?」
「それは……」
 確かに今日の和葉の勤務はイレギュラーとはいえ長かった。法律に詳しくはないけれどなんらかの基準に違反するような気もする。それを空港側に通報されるのは非常にまずい。違反行為があったら、出店許可の取り消しにも発展しかねない。
 言葉に詰まる和葉を冷たく見下ろして遼一が話はついたとばかりにまた歩き出そうとする。
 慌てて和葉は口を開いた。
「あのっ! う、腕を離していただけますか? 支えられないと歩けないほどではありませんから……」
 時間が遅く人はまばらだとはいえ、空港は二十四時間営業だ。いつ誰に見られるともわからない状況で身体を密着させて歩くのは嫌だった。
 遼一が、しばらく沈黙した後、そっと手を離した。
 その後、駐車場までの最短ルートを進む間、もう口をきかなかった。
 駐車場は人気がなく静まりかえっていた。
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