裏切りパイロットは秘めた熱情愛をママと息子に解き放つ【極上の悪い男シリーズ】
 目を丸くして尋ねると、彼は声を立てて笑ったのだ。
『和葉は言いたいこと、全部顔に出てるから』
 かつてのふたりを彷彿とさせる彼の言動に、ぎゅっと胸が絞られて、和葉は無言で目を逸らした。
 ふたりの終わり方が単純な心変わりなら、懐かしく思い出したかもしれない。たとえ結ばれなかったとしても、いい思い出として記憶に残っただろうから。
 けれど和葉の場合は違うのだ。和葉にとって彼との思い出は、それが甘ければ甘いほど、彼によって作り出された空虚な出来事に過ぎない。いかに自分が馬鹿だったかを思い知らされる記憶なのだ。
 NANA始まって以来の優秀なパイロットと称される遼一にとって、考えが顔に出るくらい単純な和葉を騙すなど簡単だった。
 改めてそれを突きつけられたような気がして、口の中に苦いものが広がっていく。もうなにも言わずに窓の外を眺めた。
 早く家に着いてほしいと心底思う。
 これ以上彼に……最愛の息子の父親に、嫌な感情を抱く前に。
 しばらくすると見覚えのある景色になる。最寄り駅に近づいたのだ。
「その先を右折したところにロータリーがあるので」
 そこで降ろしてほしいという意味で案内するが、なぜか車は左折して、細い通りのすぐ手前のコインパーキングへ入庫した。
 なぜわざわざパーキングへ?と疑問に思う和葉の視線の先で、遼一が、エンジンを切りシートベルトを外した。
「家まで送る」
 そして和葉がなにかを言う前にドアを開けて車外へ出る。和葉も慌てて外へ出た。道路へ出ようとする彼の背中を追う。
「あの、大丈夫です。ここまで送ってくださっただけで十分ですから」
 遼一が足を止めて振り返り眉根を寄せた。
「路上で倒れたら意味がないだろう。子供を連れているならなおさらだ。家に入ったのを見届けるだけだ。ご主人には、俺からきちんと説明する。それかここまで迎えにきてもらうか?」
 何度も言わせるなと言わんばかりに問いかけられて、和葉は言葉に詰まる。
 そんな和葉を一瞥して遼一はさっさと道路に出る。そして、保育園はどっちだ?というかのように首を傾げた。一歩も譲らない彼の態度に、和葉は仕方なく従う。
 こうなったら、簡単に納得してもらえないだろう。こんな路上で言い争いはしたくない。
 静かな路上を並んで歩く。
 ふたりで並んで歩いたことは数え切れないくらいあった。手を繋いで身体を寄せ合って。
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