裏切りパイロットは秘めた熱情愛をママと息子に解き放つ【極上の悪い男シリーズ】
あの頃の和葉は彼に会える日は精一杯のオシャレをした。
でも今は、仕事帰りのTシャツとデニム、メイクも最低限で髪はパサパサ。それを無地造作に、ひとつまとめにしているだけだった。
一方の遼一はあの頃と変わらず完璧だ。薄手のジャケットにアイロンが効いたシャツ、細身のスーツがよく似合う。皆が憧れる理想の男性そのものだ。
ふと和葉は、彼はこんな自分をどう思っているのだろうと考える。
随分落ちぶれたなと思ってる?
あるいは少しは同情する?
……いや、きっとなんとも思っていないに違いないと、思いなおした。
樹を預けている保育園は、雑居ビルの一階にある。
動物の絵が描かれた目張りがしてあるガラスの向こうは、照明が落ちている。園児たちは寝ているのだろう。入り口でインターフォンを鳴らす。
《はい》
「こんばんは、寺坂樹の母親です」
《ああ、ママ。おかえりなさい、どうぞ》
返事と同時にガチャンという開錠音がした。
「ここで待っていてください。届け出ている親以外は中に入れませんから」
遼一に告げて和葉は中へ入った。
薄暗いワンフロアは布団が五組敷いてありそれぞれに幼児が寝ている。その中に樹もいた。よく寝ているが頬に涙の跡がある。寂しい思いをして泣いたのだろうと思うと胸が痛んだ。
荷物をまとめながら、和葉は小声で保育士に謝った。
「今日は急な連絡で申し訳ありませんでした」
「いえ、ちょっと泣いちゃいましたけど、夜ごはんもちゃんと食べたし頑張りましたよ」
年配の保育士がにっこり笑って答えてくれた。
荷物を肩にかけて樹を抱き上げても、彼はまったく起きなかった。新生児の頃からよく寝る子ではあったけれど一歳を過ぎてからは夜は一度寝ると少しくらいのことでは起きない。夜泣きがないのがありがたい。和葉がこうして働けるのは彼のおかげでもあると思う。
外へ出ると遼一は隣のビルの前で待っていた。
「家は三ブロック先のマンションです」
そう告げて歩き出そうとすると遼一が和葉の方へ手を伸ばした。
「荷物、持つよ」
「え? ……大丈夫です。そんなに重くないですから」
「子供を抱いているだろう?」
「でも……」
なおも固辞しようとして、和葉はスーツ姿の男性が通りかかるのに目を止めて口を閉じる。こんなところで言い争いをしたくないと思い従うことにした。
「じゃあ、お願いします」
ここまでしてもらう義理はないけれど、腕の中の樹はずっしりと重く、荷物を持ってもらえるのはありがたかった。
彼に手伝ってもらいながら荷物を肩から外して渡し、マンションの方へ歩き出す。
一ミリの隙もないほど整った姿の彼がクマのアップリケのついた保育園用のバッグを手にしているのは申し訳ないほど滑稽だ。
「籍は入れていないのか」
「……え?」
でも今は、仕事帰りのTシャツとデニム、メイクも最低限で髪はパサパサ。それを無地造作に、ひとつまとめにしているだけだった。
一方の遼一はあの頃と変わらず完璧だ。薄手のジャケットにアイロンが効いたシャツ、細身のスーツがよく似合う。皆が憧れる理想の男性そのものだ。
ふと和葉は、彼はこんな自分をどう思っているのだろうと考える。
随分落ちぶれたなと思ってる?
あるいは少しは同情する?
……いや、きっとなんとも思っていないに違いないと、思いなおした。
樹を預けている保育園は、雑居ビルの一階にある。
動物の絵が描かれた目張りがしてあるガラスの向こうは、照明が落ちている。園児たちは寝ているのだろう。入り口でインターフォンを鳴らす。
《はい》
「こんばんは、寺坂樹の母親です」
《ああ、ママ。おかえりなさい、どうぞ》
返事と同時にガチャンという開錠音がした。
「ここで待っていてください。届け出ている親以外は中に入れませんから」
遼一に告げて和葉は中へ入った。
薄暗いワンフロアは布団が五組敷いてありそれぞれに幼児が寝ている。その中に樹もいた。よく寝ているが頬に涙の跡がある。寂しい思いをして泣いたのだろうと思うと胸が痛んだ。
荷物をまとめながら、和葉は小声で保育士に謝った。
「今日は急な連絡で申し訳ありませんでした」
「いえ、ちょっと泣いちゃいましたけど、夜ごはんもちゃんと食べたし頑張りましたよ」
年配の保育士がにっこり笑って答えてくれた。
荷物を肩にかけて樹を抱き上げても、彼はまったく起きなかった。新生児の頃からよく寝る子ではあったけれど一歳を過ぎてからは夜は一度寝ると少しくらいのことでは起きない。夜泣きがないのがありがたい。和葉がこうして働けるのは彼のおかげでもあると思う。
外へ出ると遼一は隣のビルの前で待っていた。
「家は三ブロック先のマンションです」
そう告げて歩き出そうとすると遼一が和葉の方へ手を伸ばした。
「荷物、持つよ」
「え? ……大丈夫です。そんなに重くないですから」
「子供を抱いているだろう?」
「でも……」
なおも固辞しようとして、和葉はスーツ姿の男性が通りかかるのに目を止めて口を閉じる。こんなところで言い争いをしたくないと思い従うことにした。
「じゃあ、お願いします」
ここまでしてもらう義理はないけれど、腕の中の樹はずっしりと重く、荷物を持ってもらえるのはありがたかった。
彼に手伝ってもらいながら荷物を肩から外して渡し、マンションの方へ歩き出す。
一ミリの隙もないほど整った姿の彼がクマのアップリケのついた保育園用のバッグを手にしているのは申し訳ないほど滑稽だ。
「籍は入れていないのか」
「……え?」