裏切りパイロットは秘めた熱情愛をママと息子に解き放つ【極上の悪い男シリーズ】
 午後五時を過ぎても、まだ日差しが強い道を、和葉は樹の手を繋ぎ自宅マンションを目指して歩いている。保育園からの帰り道である。
 十二キロの樹を抱いて帰ると汗だくになる、だからゆっくりだとしても自分の足で歩いてくれるのはありがたい。
 子供を育てるって本当に不思議なことの連続だ、と和葉は思う。こうやって歩けるようになった成長が嬉しい一方で、少し寂しい気持ちになる。いつまでも小さいままでいてほしいとも思ってしまう。
 そしてこんな風にゆったりとした気持ちで仕事から帰れるのがありがたかった。
 遼一と話をした日から二週間が過ぎた。
 あの後和葉は、啓に、遼一が以前の会社の上司で啓を夫だと勘違いしていたことを告げて謝った。
 以前の上司という微妙な言い回しをつつかれたらどう説明しようと思ってたけれど啓はあっさりと受け入れた。ただ和葉が過労で倒れかけたことは事実だから、すぐに叔母に連絡をとり、助っ人になる人材をハワイから呼び寄せてくれたのだ。
 世間の長期休みのハイシーズンに突入し、情報番組で紹介されたこともあってHOPHOPは相変わらず好調だが、和葉は以前より安定した休みを取れるようになった。
 和葉は朝の九時から夕方の五時までの勤務の固定になり、こうして手を繋いでゆっくり帰る余裕ができたのだ。
 決められた人材でやりきれなかったことを申し訳なく思ったが、誰かに迷惑をかけるくらいなら、もっと早くヘルプを出すべきだった。
 叔母からも、想定していた売上ラインを大幅に超えているのだからこのくらいの負担はなんでもない、シフトに無理が出ているならちゃんと報告するようにと叱られた。
 恵まれた環境にいて世間知らずだったことを反省するあまり、今は逆に頼りたくないと思ってしまう。けれどそれが返って迷惑をかけることにもなるのだ。
 途中公園に寄る。滑り台と砂場があるだけの小さな公園だが、一歳の樹にはちょうどいいし、ビルとビルの間にありこの時間帯は日陰になっているのもありがたい。
「いっくん、公園寄ってこう」
「おーう」
「だけど、ご飯の時間になったら帰るんだよ」
「あう」
 一才とのあまり意味のない約束を交わして公園に入る。 
 保育園はビルの一室で、散歩に連れていってはもらえるが一日に一回だ。動きたい盛りの樹にとっては少し物足りないようで、ここのところ夜の寝つきがあまりよくない。
 公園に入ると彼は勝手知ったる様子で一目散に滑り台へ向かう。迷うことなく階段を上る。
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