【完結】記憶をなくした女騎士、子育てに奔走していたら元彼が追いかけてきたらしい

2.

*†~†~†~†~*

 シアは耳を疑った。
 その日の朝、ヘリオスを預けるためにモンクトン家の屋敷を訪れたときのことだ。
 王太子ランドルフがサバドに滞在している影響か、朝の街はどこか浮ついた熱気に包まれていた。いつもと異なる喧騒が、どこか落ち着かない。
「王太子殿下がシアのことを非常に気に入ったようでね。だから、今日の視察は同行してほしいと依頼を受けたのだが……」
 ボブは言葉を濁しながらも、その顔には隠し切れない喜びが浮かんでいる。
「え、と……」
 信じられない気持ちが先に立ち、シアはきょどきょどと視線をさまよわせる。
「私が、ですか?」
 そうだ、とボブは自信満々で頷く。隣に立つコリンナも、先ほどからにこにこと微笑んでいたのは、これがその理由なのだろう。
「とても光栄なことじゃないか。このモンクトン商会の人間が、王太子殿下から指名を受けるとは。今日と明日、お願いしたいそうだ。特に今日は、ギニー国の商人とも会うから、そこで通訳もお願いしたいとのことだ」
「それは……コリンナが……」
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