【完結】記憶をなくした女騎士、子育てに奔走していたら元彼が追いかけてきたらしい
 シアの声は小さく震えた。コリンナはギニー国の出身だ。それも貴族の出だと聞いている。ましてや会長夫人なのだから、彼女が適任ではないのか。
「王太子殿下のご指名よ? 昨日の授業の視察の後、私とこの人と、シアのことをベタ褒めしちゃったのよね。そのときについ、シアはギニー語もできるから、子どもたちにも教えているって言ったら、是非とも通訳で同行してほしいって」
 コリンナの言葉は明るく弾むが、シアの心はますます縮こまる。突然のことに頭が整理しきれず、自信のなさが重くのしかかる。
「でも……」
 あまりにも急なことで戸惑いを隠せない。
「私なんか、恐れ多いです……」
「シアが引き受けてくれると、私は晩餐会の準備に専念できるし」
 今日の夕方、モンクトン商会は王太子一行を招いて晩餐会を開催するが、商会の商品を宣伝する重要な場も兼ねている。ボブの抜け目ない商売魂が、こんな機会を見逃すはずがない。
 そうなれば、会長夫人であるコリンナが準備を仕切る必要がある。彼女が会場にいるかいないかで、使用人たちの動きも変わるだろう。シアにはその理屈がわかる。わかってはいるのだが。
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