【完結】記憶をなくした女騎士、子育てに奔走していたら元彼が追いかけてきたらしい
 そんな二人だからこそ「別れましょう」とか「終わりにしましょう」とか、そういった言葉を口にするのも不自然だった。
 それでもシアはフランクに、王都へ行くこと、今まで世話になった感謝の気持ちだけは伝えた。彼もその言葉を受け入れ「身体に気をつけて」と呟いたが、その声には寂しさがにじんでいた。シアの心の中には、ほろ苦い後悔が生まれた。
 ジェイラスとの出会いは、シアの人生を大きく変えた。何よりも彼は、過去のシアを知っていると言う。
 ソファから立ち上がり、飲み物が用意されているワゴンへと近づいた。
 王城に足を踏み入れた瞬間から、なんとなく懐かしい気持ちが胸を支配した。この部屋も、どこか知っているような気がする。高い天井、ふかふかの絨毯、繊細な幾何学模様が施された壁紙。そんななか洗練された調度品が並ぶが、部屋の主の性格を表すのか、落ち着いた茶系統で統一されている。
 すべてが記憶の断片を刺激するのに、それ以上のことは何もわからない。もどかしさだけが積み上がっていく。
 水差しからグラスへと水を注ぎ、それを一気に飲み干した。思っていたよりも身体が水分を欲しがっていて、途中でやめられなかった。グラスをワゴンに戻したところで、声をかけられた。
「目が覚めたのか?」
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