【完結】記憶をなくした女騎士、子育てに奔走していたら元彼が追いかけてきたらしい
第六章

1.

 ヘリオスの小さな身体が震え、泣きじゃくる声を抑えるのに、ジェイラスは心を痛めた。それでもなんとか彼をなだめ、侍女に託す。
 今頃、アンドリューと一緒に遊んで、おやつを食べているだろう。
 窓から穏やかに午後の光が差し込むものの、ランドルフの執務室内には重々しい空気が漂う。
 ジェイラスはランドルフの前でうなだれた。
「大変、申し訳ございません……」
「ジェイラス。私はあれほどおまえに言っただろう? アリシア嬢の記憶は機密事項だ。狙われる可能性が高いと」
 その声はいつもと異なり、腹の底から響く低く重いものだった。抑えた怒りに、ジェイラスの背筋も冷たくなる。
 だが、大げさに息を吐いたランドルフは肩をすくめ、話にならないとでも言わんばかりに首を振った。
「まさか、王城内で堂々と彼女をさらうような人間がいるとは、誰も思わないだろう? まして、このことは一部の人間しか知らない」
 それゆえ、ここに集められたのは、エイミ、ホーガン、そしてブルーノと、アリシアに近しい者ばかり。テーブルを囲んで座る彼らの表情は、緊張に満ちている。
「私のほうでも見張りをつけていたが、それすらかいくぐってアリシア嬢がいなくなったわけだ。認識阻害の魔法でも使われたかもしれないな」
 ランドルフの言葉に、ジェイラスは静かに拳を握りしめる。
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