【完結】記憶をなくした女騎士、子育てに奔走していたら元彼が追いかけてきたらしい

2.

「シェリー、お母様たちはお話しがあるから、ヘリオスと遊んでいてくれる?」
 コリンナが目線を合わせて娘にそう言うと、シェリーは「まかせて」と小さな胸をトンとたたいた。
 子どもたちを侍女に預けたコリンナは、シアをボブの執務室へと案内する。
 モンクトン家の屋敷は、商会の事務所と兼用になっている。建物の西側部分が居住用で、東側が商会の事務所だ。忙しいボブだが、できるだけ家族の側にいたいという思いから、屋敷を増築して事務所を作った。そのため、彼の執務室は両者の中央に位置している。
「旦那様。シアをお連れしました」
「ああ、入ってきなさい」
 コリンナがノックをして扉越しに声をかけると、すぐに快い返事が返ってきた。
 黒壇の執務机の向こうには、ボブの屈強な姿があった。その堂々たる体躯は、商人というより、国を守る騎士や街を護る傭兵を思わせる。彼の前には二人の男が立ち、書類を手にああだこうだと議論を交わしていた。
 だがシアの姿を見つけると、ボブはひょいと顔を上げ、軽やかな笑みを浮かべた。
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