呪われた皇女ですが、年下ワンコ系魔塔主様に迫られてます!
「エルの呪いを解く方法は簡単だよ。蠱毒を作った者を殺せばいい。そうしたらエルの呪いも解ける」
「殺す……」
ラシェルも考えたことはある。術者を殺せば術も解ける。多くの魔法がそうだから。
けれどこれは、直接魔法をかけられた訳ではなく、魔法薬を使った呪いだ。だからその可能性は低いだろうと除外していたのに……。
「ダメ……ダメよ! 殺すなんて出来ない」
あの魔法薬を作ったのが父なのか、宮廷魔道士の方なのかは定かでない。どっちにしてもラシェルは、自分のために人の命を奪うことは選べない。
「今のままで十分よ。エスティリオが本当の私を知ってくれたら、それでいいの。仕事だって上手くいっているし、周りの人も良くしてくれるもの。これ以上のことは望んでないわ」
「やっぱりね。そう言うと思った。エルは昔からそういう人だから。でもさぁ、エル。俺はエルの本心が聞きたい」
「私の、本心?」
「嘘を言っているわけじゃないっていうのは分かっているよ。でも本当はあるでしょ?手の届く範囲で自分の出来ることをやるというエルの姿勢はすごく好きだよ。でも自分が持っている欲を俺に聞かせて、さらけ出してよ」
本心……本心……本心……?
「改名したとき何で『エル』って名にしたの? 普通は絶対にバレないように、全く違う名前を付けるでしょ」
「それはただ、思い付かなかったからで……」
「違うね。アカデミーにいた人の名や、本に出きてきた人、皇宮を出て初めて耳にした人の名でも、何でも良かったはずだ。けれどエルは、それを選ばなかった」
開けてはいけないものを開けてしまうような。そんな感覚。怖くて、見たくなくて、目を背けたくなる。
「大丈夫。どんなエルでも受け止めるから、絶対に」
「私……私は……」
小さく震える身体を、エスティリオが抱き寄せてきた。
ラシェルがエルという名前にした理由。
「本当の名を捨てられなかったの。お母様が私に、一番初めにくれたものだから……」
「うん。エルがお母さんのことを好きなことはよく知ってるよ。明るくて優しくて、綺麗な人だったって」
「ええ、そう……そうよ。私、顔立ちはお父様に似たけれど、でも、瞳の色はお母様と同じすみれ色だった。すごく気に入っていたの。でも、変えられてしまって……」
姿かたちを変えられて、むしろ都合が良かったと納得させた。本当は瞳の色くらいは残して欲しかった。まるで母の全ても否定されてしまったかのようだったから。
「本当は、元の姿に戻りたい……。お母様の形見の一つも、持たせては貰えなかったから。せめて、目の色くらいはって」
「うん」
「エスティリオにも昔みたいに、本当の名前を沢山呼んで欲しい。あなたにエルって呼ばれる度に、自分が誰なのか分からなくなって辛かった」
「うん、俺も沢山呼びたい」
本当はこうしたいって思っても、無理なものならキッパリ諦めて、出来る範囲で努力するべきだと思っていた。
そうでなければ自分の惨めさに耐えられず、壊れてしまいそうだったから。
だから本当の望みに蓋をして、自分を納得させて、押し殺して生きてきた。